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2019年11月16日

2040年問題 新たな社会保障への一考察(下)

公明新聞・ビジョン検討チーム

安心の制度構築へ提言

社会状況がどんなに変化しようとも、大衆福祉の理念を貫くことが、少子高齢化という時代の「挑戦」に対する「応戦」ではないだろうか。そうした観点から2040年の制度構築に向け、公明党が取り組むべき課題について提言したい。

「大衆幸福度」(仮称)策定を

社会の変化に即した新指標

40年の超高齢社会を見据えた改革を行っていく上で、公明党がめざす大衆福祉を具体化する政策指標として、「大衆幸福度」(仮称)を提唱したい。それには、(1)真に支援が必要な「弱者」の把握(2)「分断・格差」「孤立・孤独」の防止(3)「個人」に軸足を置いた制度設計――の三つの視点を反映させるべきであろう。

国連の関連団体が今年3月に発表した最新の世界幸福度ランキングによると、日本は156カ国・地域中、過去最低の58位だった。この調査では「1人当たりGDP(国内総生産)」に加え、「社会的支援」「健康寿命」「人生の選択の自由度」「寛容さ」「社会の腐敗の少なさ」の6項目から、各国の幸福度を分析・比較している。

一方、GDP自体は最貧国レベルながら、国民の幸福実感が非常に高いブータンのような国もある。仏教国である同国は、国民の幸福度を独自に測る指標「GNH(国民総幸福量)」を提唱し、その増加を政策の中心に据えていることで知られる。

日本国内では、東京都荒川区が独自の幸福指標である「GAH(荒川区民総幸福度)」を基に取り組みを進めている。さらに同区が発起人代表となって設立された「住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合(通称・幸せリーグ)」には、全国95市区町村が参加し、交流を深めている。

また、今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を踏まえ、内閣府でも人々の満足度(well-being)という質的・主観的観点を政策運営に生かすための指標群(ダッシュボード)の検討を進めている。

社会保障制度の拡充と個人の幸福実感を連結させる観点から、こうした国内外の知見や動きを「大衆幸福度」の策定に大いに参考にしていくべきだろう。

「弱者」の把握

その上で、政策指標の設定で考慮すべき「弱者」とは誰か、ということを明確にしなければならない。

低経済成長の超高齢社会において政治は、かつてのような利益の分配が難しくなる一方、新たな負担、つまり「不利益」の分配が避けられなくなるというのは、高瀬淳一・名古屋外国語大学教授の著書『「不利益分配」社会』(06年8月)などで広く知られた見解だ。そこで問われてくるのは、限られた「利益」を誰に届け、莫大な「不利益」をどのように国民全体で分かち合うかだ。

そのためには、真に支援が必要な弱者の把握が欠かせない。今後の弱者支援について、大田弘子・政策研究大学院大学特別教授が「まずは、年齢などの属性で福祉支援の対象を考えることをやめることではないでしょうか」(1)と述べている通り、「高齢者=弱者」といった固定観念(ステレオタイプ)は、もはや捨てるべきだ。

では、弱者をどのように探し出すか。「所得」や「資産」など経済的側面が重視されるのは今後も変わらないことから、社会保障と税の共通番号(マイナンバー)の利活用を一層進め、正確な把握に努めていくべきだろう。

とりわけ40年へ向け、生活保護を受給する可能性の高い1人暮らしの高齢者を早めに把握し、サポートしていく施策を今から準備しておく必要がある。

分断・孤独の防止

「分断・格差」「孤立・孤独」を回避するための政策指標も不可欠だ。

自公連立政権における公明党の存在意義について、山口那津男代表は「経済的、社会的理由による分断や格差を生み出さないように、“防波堤”として社会の安定を担う役割を果たしている」(今年2月、全国県代表協議会でのあいさつ)と述べている。そのための具体的実践として昨年、展開した「100万人訪問・調査」運動では、全国約3000人の議員が地域で多様な民意を受け止め、政策に反映させてきた。

政府・与党の多様な取り組みにもかかわらず、国内において分断・格差問題を危惧する声が依然、根強い。それは、戦後の安定と繁栄を支えてきた「中間層」が縮小し、不安定化していることが背景にある。

橋本五郎・読売新聞特別編集委員は、「公明党はこうした層を支えるとともに、そこからこぼれ落ちた人を助ける視点を大事にしてほしい。(中略)多くの人たちは、実態を示す数字上の『格差』以上に格差の広がりを実感している」(2)と述べる。

一方、全国各地で、人と人の関係が希薄化する「無縁社会」も広がっている。身寄りのない単身高齢者の社会的孤立にとどまらず、「孤育て」(孤独な育児)に悩む母親、SNS(会員制交流サイト)で多くの人とつながっているのに孤独を感じるという「つながり孤独」の若者など、孤立・孤独が世代を超え、まん延している。

社会的な孤立や閉じこもり傾向は、健康寿命にも悪影響を与える。例えば、東京都健康長寿医療センター研究所の研究結果(18年発表)によると、日常生活に問題がなくても、他人との交流機会が少なく外出もあまりしない高齢者は、そうでない人に比べ、6年後の死亡リスクが2.2倍になるとしている。

いまや孤立・孤独の問題は先進諸国の医療問題となり、経済にも大きな打撃を与える。英国では、孤独による経済全体の損失が年間320億ポンド(約4.5兆円)に上るとの調査がなされ、18年1月に「孤独担当大臣」を置き、国を挙げた対策に乗り出している。

孤立・孤独に対処するための具体的な指標の設定に関しては、人々の目に見えない絆を“資本”として評価する「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)を活用することも検討すべきだ。

個人単位で

社会構造の変化に即した社会保障制度を構築するためには、「個人」に軸足を置いた指標が求められる。

現行制度で広く用いられるモデルケース――夫が働き収入を得て、妻は専業主婦、子どもは2人の4人世帯という「標準世帯」――は、いまや総世帯数の5%に満たないとも言われ、現実と乖離している。

政策立案の前提となる標準世帯の見直しについては、藤森克彦氏の著書『単身急増社会の衝撃』(10年5月)など、早くから指摘がなされている。山田昌弘・中央大学教授(家族社会学)も、家族の有無や雇用形態などにかかわらず支援できるよう、「社会保障を世帯単位から個人単位にしなければならない」(3)と主張している。

再分配強化し、格差是正

経済成長の観点からも重要

厚生労働省は今年9月、当初所得から税金や社会保険料を差し引き、社会保障給付を加えた再分配後の世帯所得の「ジニ係数」が、17年調査で0.3721だったと発表した。

ジニ係数は、0~1の間で1に近いほど格差が大きいことを示す。当初所得のジニ係数0.5594と比べ、格差が33.5%改善している。しかし、国際的に見ると、日本の再分配機能はドイツやフランスと比べても弱く、もっと強化すべきだ。

近年、国際機関が相次いで報告している通り、再分配後の所得格差が大きいほど、経済成長にマイナスの影響がある。例えば、経済協力開発機構(OECD)の分析では、格差が大きいほど、低所得層での人的資本への投資(子どもへの教育投資など)が低下する。結果として、長期的な経済成長が損なわれるとしている。適切な再分配こそ成長を促すカギだ。

所得再分配の方法は、税と社会保障の二通りある。税について見れば、課税ベースは所得、消費、資産の三つしかない。そこで、森信茂樹・中央大学法科大学院特任教授(租税政策)は公明党の斉藤鉄夫幹事長との対談で、「消費税の引き上げは政治的にも簡単ではないし、そうすると『資産』に対する税を考える必要があるのではないか」(4)と指摘した。

申告納税者の所得税負担率

これを受け、斉藤幹事長は、分離課税となっている金融所得税制の見直しに言及している。現状は、合計所得1億円までは所得税の負担率(実効税率)が上がっていくが、それを超えると下がる。

その理由として、所得に占める株式などの譲渡所得の割合が高所得者層ほど高い上、金融所得の多くは通常所得(最高税率45%)と分離し、課税(所得税15%、住民税5%)されることなどから、所得全体で見ると、高所得者層の負担率が低くなっている。

斉藤幹事長は「金融資産や証券で得た利益が分離課税になっているために、高額所得者の税率が、かえって低くなっているという矛盾は、解消していく必要があると思う」(4)と述べている。こうした観点も含め、40年の日本社会を念頭に置いた分配重視の税体系の構築へ向け、着実に準備を進めるべきだ。

社会的な亀裂生まない枠組み

「ベーシック・サービス」 検討に値

最低生活保障と言えば、全ての個人に一定額の現金を定期的に給付する「ベーシック・インカム」が知られている。これに対し、現金ではなく、医療や介護、育児、教育、障害者福祉といった「サービス」を必要とする全ての個人に無償で提供するという、井手英策・慶応義塾大学教授(財政社会学)の「ベーシック・サービス」構想が、賛否両論を巻き起こしている。

同氏の著書『幸福の増税論』(18年11月)によれば、日本では、中高所得層の生活水準も低下する中、弱者を救済するためだけの租税に対しては中高所得層が抵抗するようになっており、増税を難しくしているという。しかし、ベーシック・サービスであれば、弱者だけを救済するのではなく、全ての人を何らかの受益者にできると強調する。

井手氏は、必要な財源として、全てを消費税で賄うのであれば、税率20%程度になると試算。ただし、消費税の逆進性を緩和するため、所得税の累進度を高めたり、相続税を引き上げるなど、税のパッケージ化によって、全体として負担の公平性を担保できると主張している。

同氏の提言の根底には、救うべき弱者を特定した社会保障だと、他の層との“分断線”が引かれ、社会的な亀裂を生じさせるという問題意識がある。分断をつくらないために、全員に等しくサービスを提供するという発想で、本稿で触れた「弱者の明確化」とは方向性が異なるが、重要な選択肢として検討に値しよう。

公明党が結党された55年前、既成政党は「福祉なんて政治ではない」と冷淡だった。しかし、未曽有の少子高齢化が進む中で公明党は、福祉を政治の主流へと着実に押し上げてきた。

40年問題は、自治体ごとにその現れ方が大きく異なる。地域に根を張り、全国にネットワークを持つ公明党のリーダーシップが、ますます求められる時代に入った。

今、再び大衆福祉の旗を高く掲げ、「小さな声」に耳を傾け、40年を見据えた安心の社会保障構築に挑まねばならない。世代や党派を超えた幅広い国民的合意の形成へ、粘り強く議論を進めていきたい。

引用文献

(1)大田弘子・斉藤鉄夫「<対談>変革求める底力が活力ある社会実現を可能に」『公明』19年7月号

(2)橋本五郎「結党50年 公明党を語る 現実的『中道』の大切さ」公明新聞14年11月6日付

(3)山田昌弘「社会保障制度を世帯単位から個人単位に」『公明』19年10月号

(4)森信茂樹・斉藤鉄夫「<対談>安心できる税制、社会保障を次世代に」『公明』19年2月号

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