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2025年9月8日

(論壇)トランプ旋風に思う

日米関係見直し論は早計 
安全保障踏まえ冷静な態度を 
日米協会会長(元駐米大使) 藤崎一郎

日米交渉がまとまったのは良かった。ただ9月4日に署名された大統領令は、米国政府が選択した先に日本政府が5500億ドルを投資することに同意したと明記している。両政府間の合意覚書は日本が半導体、医薬品、人工知能(AI)といった分野で5500億ドルを米国に投資することが両国の最善の利益と認識したと述べている。赤沢亮正経済再生担当相は、この額は日本企業の対米進出に対するJBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)の融資、保証を含むもので、投資は通常、全体の2%くらいであると説明していた。それは覚書署名後も変わっていないと言う。両者のニュアンスの差は否めない。

二つのことが頭をよぎる。一つは1991年の湾岸戦争の際、当時の橋本龍太郎蔵相とブレイディ米財務長官の会談で90億ドルの拠出を口頭で合意した時だ。直後の円安で5億ドル分目減りし、米側は納得しなかった。合意文書が無かったので結局、目減り相当額を別な名目で日本が拠出した。

もう一つは2019年の日米貿易協定である。米国の自動車・自動車部品への2.5%関税については「さらなる交渉による関税撤廃」を約束されたが、そのさらなる交渉は始まらなかった。また追加関税はかけないとのトランプ大統領の口頭の約束に日本側は期待したが、これは今回無視された。いずれの場合も曖昧な合意の場合、彼我の力の差を反映して日本側が譲らざるを得なくなった。

最近、トランプ政権のやりたい放題に鑑み、わが国はEU(欧州連合)やASEAN(東南アジア諸国連合)の国々と協力して多国間主義、法の支配などを守るべしといった議論を聞く。もちろん日本の主張を変える必要はない。ただ他国と組んだりすればトランプ大統領の反発は自明だ。肝心の欧州主要国は今やトランプ大統領の機嫌を取ることに、きゅうきゅうとしている。彼らのお手本は安倍外交だ。

「『安倍はトランプにおべっかを使ってばかりで情けない』とさんざん叩かれました。だけど、『あなたは立派だ』と口頭で褒めることですべてがうまくいくならばそれに越したことはありません。大上段に構えて『米国の政策は間違っている』と文句を言い、日米関係が厳しくなっても、日本にとって何の利益にもならないでしょう」(『安倍晋三回顧録』、中央公論新社)。この「韓信の股くぐり」をもいとわぬ冷徹さこそが安倍外交の真骨頂だったろう。

もう一つ引用する。「アメリカ人の歴史を見ると、外国に対して相当不正と思われるような行為を犯した例はあります。しかしその不正は、外国からの抗議とか請求によらず、アメリカ人自身の発意でそれを矯正しております。これはアメリカの歴史が証明するところです。われわれは黙ってその時期の来るのを待つべきです」。これは今の話ではない。1914年、加州排日移民問題でブライス駐米英国大使による在米大使館参事官・幣原喜重郎への忠言である(幣原喜重郎『外交五十年』、中公文庫)。今の政策を「不正」とは言わないが、米国が将来自ら見直す可能性も否定できない。それが米国である。

翻ってロシア、中国、北朝鮮に囲まれた国は世界に日本と韓国しかない。米国による安全保障が、わが国にとりカギであることは変わり得ようがないではないか。

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