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コラム「北斗七星」
きょう11月1日は「古典の日」。優れた古典文学や伝統芸能などへの理解を広げる目的で2012年に制定された◆11月1日という日付は、『紫式部日記』の寛弘5年(1008年)同日の記述に『源氏物語』の存在が初出することに由来する。日記には、藤原道長邸での祝宴で、ある公卿が戯れに「この辺りに若紫はいらっしゃいませんか」と酔言されたとある◆先月、鎌倉時代の歌人・藤原定家の校訂写本が発見され話題になった源氏物語第5帖『若紫』には、光源氏と終生の伴侶・紫の上の出会いが描かれる。源氏物語は当時、『紫の物語』と呼ばれており、この日以降、物語の作者は「紫式部」とあだ名されるようになったという◆清少納言が「をかし」の人なら、紫式部は「あはれ」の人か。夫に先立たれ、頼みとした道長の寵愛を失うなど孤独と悲愁の中で、人生の「あはれ」を見詰めながら大長編54巻を物した。国語学者の大野晋さんは、その原動力を日記中の「心すごうもてなす身ぞとだに思ひ侍らじ」の条に見る(『光る源氏の物語』中公文庫)◆私は自分が打ち棄てられた人間だなどとは絶対に思うまい、との胸に迫る表白は、大切な人を亡くしたり、くじけそうになったりしている人たちへの、千年の時を超えた、励ましであるように思えてならない。(中)