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2025年6月11日

“論壇” 戦後世界の政治と経済

自由など巡り対立軸変化
京都大学名誉教授 橘木俊詔

■保守化・右翼化、米国で鮮明

第2次世界大戦後の世界の政治と経済の歴史を簡単に振り返ってみよう。政治の世界では、ファシズム国(独伊日)に対抗するため、自由主義国(米英仏など)と共産主義のソ連が結託して戦い、後者が大戦で勝利した。

戦後になると、米ソに代表される資本主義と社会主義の対立が深刻となり、政治も西側諸国と東側諸国が米ソの圧倒的軍事力を頼りに、冷戦構造の対立となった。自由主義国の間でも、ケインズ経済学で象徴される公共政策を伴うリベラリズム(自由主義)と、市場重視の新古典派経済学を信奉するリバタリアン(自由至上主義)の対立があり、その象徴として“サッチャー・レーガン・中曽根”で代表される競争促進・福祉削減・規制緩和の「小さな政府」論と、政府の役割と福祉を重視する「大きな政府」論が微妙に対立することとなった。

1990年代になるとソ連の崩壊が発生し、経済としての社会主義国が東欧などで消滅し、マルクス経済学は弱体化した。しかし中国は、表面上は社会主義を標榜しているが、実質は資本主義の経済、共産党一党独裁の社会主義の政治という微妙な両立体制にある。そして、中国経済の発展により今や世界の覇権争いは米中の時代となっている。

もう一つの変化は、米日西欧に代表される民主主義的先進資本主義国と、ロシア・中国などの権威主義国家の多い「BRICS」プラス「グローバルサウス」(南半球を中心とした途上国)との対立の時代となったことである。

私自身の関心からすると、資本主義と社会主義の対立もさりながら、資本主義・自由主義国内における政治の分野での保守主義とリベラリズムの対立である。自由・民主主義・資本主義の創始国である英国を考えると分かりやすい。保守党と労働党の2大政党が長い期間にわたって抗争し、健全な政権交代を重ねてきた。保守党は自由な経済と小さな政府を旨とするのに対し、労働党は福祉を重視し、ある程度の規制を容認する。もう一つの差異は労働者階級への配慮と、国営企業の存在を容認するかにある。

実は米国も、共和党は保守党に、民主党は労働党に親和性が高く、政権交代が見られた。ドイツもかなり英米に近い。幸か不幸か日本は一時期の民主党政権を除いて、自民党の保守勢力が牛耳ってきた。西欧の中でもデンマークなどの北欧諸国は英国労働党よりもっと福祉重視が強く、福祉国家と呼ばれる国もある。

この保守党系と労働党系を区別する上で重要な視点は、前者が国家経済を強くするためには所得分配の不平等に異を唱えないが、後者には平等志向があることである。

最近になって特筆すべきは、米国での皇帝気取りのトランプ大統領の再登場である。旧来の共和党より強い保守化・右翼化で、より小さな政府、移民の排除、LGBT(性的少数者)やDEI(多様性、公平・公正性、包摂性)、リベラル系の大学への攻撃などである。米国などの自由民主主義の国において抵抗勢力はあるが、保守化・右翼化が鮮明である。

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