公明党トップ / ニュース / p417838

ニュース

2025年5月13日

<論壇>どうしのぐ日米交渉 「失いを最小限に」が目標

日米協会会長(元駐米大使) 藤崎一郎 
国内事情から実は急ぐ米国

「トランプ台風」が吹き荒れている。政府を離れて久しいので、どんな交渉が行われているかは知らない。それなりに思うことはいくつかある。

一つは交渉結果をウィンウィンにすることについてだ。政府の関係者が国民向け、米国向けにそういう強気な発言をするのは当然だ。しかし日米両国が同じ程度に勝つことを本気で期待し得るだろうか。なんでこの交渉を行っているか思い起こせばすぐ分かる話だ。トランプ大統領が「米国の貿易赤字は米国の他国への持ち出しだ」と言い出した。これをただすため、WTO(世界貿易機関)の協定上は疑義が大きい追加関税や相互関税を導入すると発表した。これに反発して報復関税をかけようとする国が出ると、相互関税については導入を延期して期限までに合意しないとこの関税をかけると言う。米国の新たな関税回避のため各国はどういう譲歩を示せば足りるかという交渉をせざるを得なくなった。そもそも米国を現状より有利にすることが目的の交渉なのだから、米国のWINに対し、こちらはLOSEでなく、小文字のwinと言える所まで持って行けるかという話である。ウィンウィンなどという聞こえの良い呪文を唱えているうちに、いつの間にか自縄自縛になってはならない。

もう一つは、こういう機会を利用して農業などを改革して日本経済の体質強化を図るべきだという議論である。まだ外圧利用かと情けなくなる。日本は世界有数の経済大国だろう。自分でお菓子を持っていると食べてしまうから大人に預けようという子どもみたいな話ではないか。もしトランプ大統領に聞こえれば「待っていました」ということになってしまう。

それにしてもトランプ大統領はメディアの使い方がうまい。4月も次の大統領選挙の民主党有力候補の一人であるミシガン州のホイットマー知事をホワイトハウスに招いた。知事は当然1対1の着席会談と思って出掛けたら、トランプ大統領は執務机の後ろに座り、知事は壁際に並ぶ閣僚の末尾に立たされてのやり取りになった。入ってきた報道陣に対して知事がとっさにファイルで顔を隠した写真が新聞に出て、その対応ぶりで評判を落としてしまった。日本との交渉開始前に赤沢亮正経済再生担当相に自ら会ったのは、執務机の前に座らせMAGA(米国を再び偉大に)の赤い帽子をかぶらせた写真を世界に配るためだったのだろう。

今度の各国との交渉で米国は短期的には利益を上げるだろう。しかし長い目で見ると、こういうやり方を続けることは決して米国のためにならない。衰退産業を保護して再活性化できるか疑問だ。それより長い間築き上げてきた米国の国際的な信用、信頼性が損なわれ、そこにつけ込む国が出てこよう。それこそが問題だ。そう考えると、この交渉は米国が一定の成果を得たとして早期にさやに収めさせることが得策だ。トランプ大統領は味をしめて、かさにかかってくるかもしれない。しかし同大統領は当然のことながら株価、国債価格の同時安や急速な支持率の低下を気にしているようだ。米国がこれまで失ってきた地歩を自分の力で取り戻したぞと国民に説明できれば対応を変える可能性はある。

だからこの交渉はウィンウィンでも、日本改革の切り札でもない。日本にとってどうしのぐかという交渉だと明確に意識すべきである。

公明新聞のお申し込み

公明新聞は、激しく移り変わる社会・政治の動きを的確にとらえ、読者の目線でわかりやすく伝えてまいります。

定期購読はこちらから

ソーシャルメディア