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コラム「北斗七星」
『アンパンマン』の作者・やなせたかし夫婦を描いたNHK朝ドラ『あんぱん』。それを見て、やなせ氏に興味を抱き、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(梯久美子著、文春文庫)を手に取った◆1941年1月、氏のもとに召集令状が届く。21歳。入隊後、中国の戦地へ赴く。死ぬのは嫌だ。でも政府や軍から日本が行う戦争は正しいと教えられてきた。正義のためなら仕方がない。そう考えて運命を受け入れた。だが、仲間は次々倒れ、自身もマラリアや飢えに苦しむ◆46年1月に帰国を果たすが、心は深く傷ついていた。信じてきた正義がひっくり返ったからだ。ある日を境に逆転してしまう正義は本当の正義ではない。ひっくり返らない正義とは何か。それは、おなかがすいている人に食べ物を分けることではないか◆戦争は人を殺すことだが、食べ物を分けることは人を生かすことだ。飢えている人を助けることは国も時代も関係なく正しいはず。この思いが、やがて誰もが知る“ヒーロー”を生む◆氏のモットーは「一寸先は光」。74歳の時、最愛の妻を失う。それでも氏は希望という光に向かって94歳まで歩み続けた。どんなに闇が深くても目を凝らせば光はあるのだと。(佳)