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救急でマイナ保険証を活用
通院や服薬の情報を確認
適切な処置、円滑な搬送可能に
全国で実証事業
医療機関などが、本人の同意を得て薬剤の服用歴などを取得できる「マイナ保険証」。これを救急の現場でも活用しようと、総務省消防庁は実証事業を進めており、今年度からは全都道府県に広げる。その様子を紹介するとともに、政府のワーキンググループ長を務める自治医科大学の間藤卓救急医学講座教授に事業の意義を聞いた。
■患者から聴取困難
「通常の救急搬送では、苦しんでいる患者から口頭でさまざまな情報を聴かなければならないが、難しい。マイナ保険証を活用することで、その負担が軽減される」。平塚市消防本部の担当者はメリットを説明する。同市は昨年度から、マイナ保険証を活用した救急業務の実証事業に取り組んでいる。
事業の流れはこうだ。①119番通報を受けた消防指令センターの通信指令員が患者にマイナ保険証の準備を依頼②救急車が到着したら、救急隊は患者のマイナ保険証をタブレット型端末にかざし、受診歴や薬剤情報など患者の医療情報を閲覧③読み取った情報を踏まえ、搬送先の病院を選定、連絡する④病院に到着したら医師に患者を引き継ぐ―。
情報の閲覧は、患者の同意を原則としているが、本人が意識不明の場合でも一定の条件下において、同意なしで閲覧できる例外を設けている。
■治療の事前準備も
救急隊が医療情報を正確に把握することで、適切な応急処置やスムーズな搬送につなげることができる。そうした情報は、搬送先の病院に共有されるので、迅速な治療への事前準備が可能となる。
実際、平塚市では、マイナ保険証の活用で適切な応急処置につながった事例がある。外出先で意識障害を起こした60代男性のケースはその一つだ。
救急隊が到着した時点では意識がはっきりしておらず会話ができない状態だったが、本人が持っていたマイナ保険証で医療情報などを確認したところ、糖尿病の既往歴が判明。ブドウ糖を投与すると搬送中に意識が戻り、病院到着時には会話ができる状態まで回復した。
同市によると、昨年度は約2カ月間の実証事業を実施したところ、救急車の出動件数2883件のうち、マイナ保険証で情報を閲覧した件数は427件だった。市消防本部の担当者は「事業の周知とともに、いざという時に備えたマイナ保険証の携行を呼び掛けていきたい」と話している。
■公明が後押し、政府、26年度に本格運用
高齢化などにより、救急需要が増えている。そうした中で、総務省消防庁によると、患者からの聴取が難しいため、搬送先の選定に時間がかかるケースが多くなっているという。119番通報を受けてから医師に引き継ぐまでに要する「病院収容所要時間」は長くなる傾向が見られる。そこで、同庁が2022年度から開始したのがマイナ保険証活用の実証事業だ。
昨年度は35都道府県、67消防本部660隊で実証事業が行われ、情報の閲覧件数は1万1398件だった。26年度からの本格運用へ、今年度は全都道府県、720消防本部5334隊で実施する。
公明党は、マイナ保険証を国民が安心して活用できる仕組み作りを推進してきた。救急搬送時の同保険証の活用については、22年1月の衆院代表質問で、実証事業の一日も早い全国展開を主張。その後も、国会で何度も取り上げ、後押ししてきた。
■トラブルなく好事例も/自治医科大学救急医学講座教授 間藤卓氏
医療機関にとって、緊急搬送された患者の服用歴などの事前情報が分かることは非常に重要だ。
例えば、脳梗塞や心筋梗塞の患者は、血液を固まりにくくする薬を服用しており、手術などの治療の際は大量出血のリスクがある。病院によっては対応できない場合があり、患者を転院搬送するケースは少なくない。
緊急搬送時にマイナ保険証を使えば、得られた情報を基に、最初から適切な医療機関へ迅速につなぐことができるため、患者、救急隊、医者にとって“三方よし”のシステムと言える。24年度の実証事業では、トラブルがなく好事例も多く見られた。
今後は、救急業務でマイナ保険証が当然のように使われる社会機運の醸成をめざす。同時に、情報閲覧に同意しない患者にも配慮が必要だ。ワーキンググループとして、引き続き丁寧に議論していきたい。