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2025年3月13日

“論壇” 「米国第一主義」の混乱

保護貿易と格差を懸念
慶応義塾大学教授(元日銀審議委員)白井さゆり

■新しい国際協調模索の機会に

第2次トランプ政権が発足して以降、「米国第一主義」の徹底ぶりは予想を超え、世界に混乱をもたらしている。その強引な手法や拙速さに加え、大国としての基本的なマナーを欠いた対応が目立つ。

大きな波紋を呼んでいるのは、ウクライナに侵略したロシアに対する姿勢だ。ウクライナに多くの譲歩を迫る形で戦争終結を模索しており、前政権下で実施されたウクライナ支援の弁済も求めている。その一環としてウクライナに埋蔵するレアアース(希土類)に関連する権益の一部譲渡を要求した。ウクライナが拒否すると軍事支援も停止した。この一方的な対応は欧州に警鐘を鳴らし、米国軍事力に頼らない防衛力強化の必要性を痛感させた。皮肉だがそれがドイツの極端な財政緊縮策を改めさせ、欧州で防衛費拡大による景気回復が実現する契機となりそうだ。

輸入関税政策の急変も大きな世界の脅威となっている。中国からの輸入品に対しては、第1期政権時の2018年以降、関税率を20%程度まで引き上げたが、先月と今月にさらに10%ずつ引き上げた。カナダ・メキシコからの輸入品には25%の関税を課す方針だったが、国内産業界からの要請により一部を4月まで延期した。米国への輸出国全体に対しては、アルミニウム・鉄鋼、自動車、医薬品、半導体、農産品など幅広い品目への関税引き上げや相互関税も近く導入される。これらの措置は、交渉次第で調整される可能性も高く、企業負担の増加や税関業務の混乱を招くことは避けられない。

さらに、富裕層を優遇する財政政策も推進している。18年に実施された個人所得税の大減税は、特に富裕層に大きな恩恵をもたらし、所得格差の拡大を招いたが、今年末に失効する予定だ。トランプ政権はこれを恒久化し、新たにチップや残業代、社会保障給付の非課税化を打ち出した。また、法人税についても18年の減税をさらに拡大する方針を示している。これにより、税収の減少は避けられない。

財政赤字の拡大を抑えるため、徹底した歳出削減策も進めている。新設された「政府効率化省」の下で、政府サービスや政府職員の解雇や途上国への援助が削減・凍結され、政府機能の縮小が進んでいる。しかし、これだけでは減税による膨大な財政赤字を補えないため、関税引き上げによる税収増が重要な財源と見なされている。

関税の引き上げは輸入物価の上昇を招き、生活必需品の価格高騰を引き起こす可能性が高い。特に低所得者層への負担が増し、経済格差のさらなる拡大が懸念される。

トランプ氏の政策は、「誰一人取り残さない」という世界のSDGs(持続可能な開発目標)の理念に反し、世界秩序を不安定にし、社会的不平等を拡大させる恐れがある。しかし、世界最大の経済大国・援助大国の米国の支援が期待できない中で、残された国々で持続可能な未来の実現に向けた新しい国際協調のあり方を模索する機会ともなり得る。今後、世界は共生の道を模索し、調和をめざすことがますます求められるだろう。

米コロンビア大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。国際通貨基金(IMF)エコノミストなどを歴任し、2016年より現職。アジア開発銀行研究所サステナブル政策アドバイザーを兼任。

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