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東日本大震災8年6カ月 復興の現状と課題
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から8年6カ月。復興の現状といま浮き彫りになっている課題について、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長と福島県の内堀雅雄知事に聞いた。(東日本大震災取材班)
人の“つながり”を強化する被災地外の支援が不可欠
東北大学災害科学国際研究所所長 今村文彦氏
――東日本大震災から8年6カ月の節目を迎えた。被災地の復興の現状をどう見るか。
今村文彦・東北大学災害科学国際研究所所長 まず、東日本大震災は、人類が経験したことがない広域かつ原発事故を伴った複合的な災害であることを再認識する必要がある。
この8年6カ月、インフラや住環境の整備は進んだ。防潮堤はさまざまな議論があるものの、震災前よりも地域の安全性が高まっていることは事実だ。諸外国で発生した災害では、ここまできちんとした対応はない。一方、コミュニティー再生については課題が残っている。
――政府は2020年度末までを「復興・創生期間」と定め、取り組みを進めているが。
今村 復興には、(1)生活(2)産業(3)つながり――の三つが重要だ。それらを完成させるには、10年という区切りは短い。「復興・創生期間」後も、復興を成すための支援が欠かせない。
生活や産業について、少子高齢化が極端に進む東北の被災地では、社会構造システムが大きく変わっているため、社会課題を最も先進的に捉えて解決策を考えなくてはならない。
住環境の再建には、人と人との“つながり”が重要だ。阪神・淡路大震災でも課題として指摘された一人暮らしの高齢者へのサポートをどうしていくのか。コミュニティー再生をいかにしていくべきか。
この点、大切なのは、“被災地外の力”だ。過去においても昭和の三陸地震津波の際に復興の原動力となったのは、内陸部や他県の人々の力だった。国外へ目を移しても、インド洋津波で甚大な被害を受けたインドネシア・バンダアチェ市も、他地域から来た人が定住し復興した。8年6カ月がたち、この“力”が薄まっているのが現実だ。
――「復興・創生期間」後を見据えた政治の役割とは。
今村 復興は、元に戻すのではなく、より良い街づくりを進め、安全性を求めることだ。この議論を続けなければならない。
今の社会構造を大まかに整理すると、住民と行政のほか、企業やNPO(非営利団体)といった民間がいる。価値観や目標が異なる中、それぞれを結び付けるのが政治の役割だ。共にめざすべき方向へ進めていくのに政治の力が不可欠だ。
今、世界では、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」や、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」と並び、15年の第3回国連防災世界会議で採択された30年までの国際的な防災の行動指針「仙台防災枠組」が、諸外国の目標になっている。中でも仙台防災枠組への関心度は高く、国際会議に参加すると1日に何十回も「Sendai(仙台)」という言葉が出てくるほどだ。
残念ながら、諸外国の関心度に比べ、国内の認識は高くはない。世界は東北の被災地に学ぼうとしている。いかに復興を成し遂げ、後世にその歩みを残せるか。この点を担うべきが政治である。ぜひとも、この役割を果たしていくことに期待したい。
福島再生へ着実に前進。産業集積などで帰還促す
福島県知事 内堀雅雄氏
――福島の復興に関する現状認識は。
内堀雅雄・福島県知事 国内外からの温かい支援と県民の懸命な努力により、各種インフラや新たな拠点施設の整備が進んだほか、県内観光地のにぎわい回復やJヴィレッジの全面再開、さらには、県産農産物の輸出量が2年連続で過去最高を更新するなど、福島県の復興は着実に前進している。
一方、今なお多くの人々が避難生活を続けており、避難地域の復興・再生や廃炉・汚染水対策、風評・風化対策、急激な人口減少など、いまだ難しい課題を抱えている。
現在の福島県は、復興が進む「光」の部分と、困難に直面している「影」の部分が混在しており、いかに「影」を薄め、「光」を強めていくか、さまざまな挑戦を続けているところだ。
――震災8年6カ月を経た今、新たな課題は何か。
内堀 地震、津波、原発事故、風評被害という前例のない複合災害に見舞われ、復興にはまだ長い時間を要する。「復興・創生期間」後も切れ目なく安心感を持って取り組めるよう、長期的な視点に立った組織・制度・財源の確保が不可欠だ。引き続き、国が福島の復興に責任を果たすよう、「言うべきことは言う」との強い姿勢で交渉を進めていく。
――廃炉や住民帰還などにどう取り組むか。
内堀 廃炉作業については、東京電力に安全を最優先に作業を進めるよう今後も強く求めていく。
住民帰還は、避難指示解除後、少しずつ進んでいるがまだまだこれからだ。被災者の生活再建をはじめ、医療・介護サービスの確保、商業施設や教育環境の整備など、帰還促進に向けた広域的課題に取り組んでいく。
風評払拭については、引き続き、農林水産物のモニタリング検査など安全対策をしっかりと行う。その安全性やおいしさを丁寧に発信することで理解と共感の輪を広げたい。観光面でも動画やSNSを活用した効果的な情報発信など、観光資源のさらなる磨き上げや地域ならではのおもてなしに注力していく。
――新たな取り組みは。
内堀 浜通り地域などの産業基盤を再構築するため、福島イノベーション・コースト構想や福島新エネ社会構想に基づき、ロボットや再生可能エネルギー関連産業など新たな時代をリードする新技術、新産業の創出を積極的に推進している。成長産業の育成・集積で避難地域の復興を加速させ、その効果を県内全域に波及させるなど県全体の復興・再生へとつなげていく。
――福島復興に関する公明党への期待について。
内堀 震災以降、公明党には被災地や被災者に寄り添った、きめ細かな支援をいただいてきた。特に、インフラ整備や除染の促進をはじめ、復興交付金の拡充、福島イノベーション・コースト構想の推進など、さまざまな政策の実現に尽力され、本県の復旧・復興を力強く支えていただいた。
今後も、公明党をはじめ福島に思いを寄せてくださる多くの人々と手を携え、世界に誇れる復興の実現に向け、県民一丸となって挑戦を続けていきたい。引き続き、「挑戦県ふくしま」への応援をお願いしたい。
復興・創生期間
政府は、東日本大震災の復興期間を2011年から10年間と設定。復興のステージにより生じる新たな課題にきめ細かく対応し、被災地の自立へつなげ、地方創生のモデルを実現する期間として、後期5カ年を「復興・創生期間」と位置付けている。
いまむら・ふみひこ
1961年生まれ。東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了(工学博士)。専門は津波工学。
うちぼり・まさお
1964年生まれ。東京大学卒業後、自治省へ入省。福島県企画調整部長、同副知事などを経て現職。