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【主張】障がいと労働収入 「減額の理由なし」は意義ある判決
「障がい者も健常者と同じように働ける共生社会が進みつつある」と感じさせる意義ある判決だった。
聴覚障がいのある当時11歳の女児が、2018年に大阪市内で重機にはねられ亡くなった事故を巡る裁判で、大阪高裁は先月、女児が将来働いて得られるはずの収入について、健常者と同額とする判断を示した。
この収入に当たるものを「逸失利益」と言う。障がい児の場合、過去の裁判では健常者より労働能力が低いとする傾向があり、全労働者の平均賃金から減額されるケースが続いてきた。しかし大阪高裁は、女児が補聴器を使うことで通常の会話は聞き取れていたことから「健聴者と同じ条件で働くことができたと合理的に予測することができる」とし、「減額をする理由はない」と結論付けた。
注目すべきは、そう判断した理由だ。女児の聴覚能力が同年齢の健聴者に劣らないとされたことに加えて、聴覚障がい者を巡る社会情勢や職場環境の変化を踏まえるべきとした意味が大きい。
障がいをカバーする技術の進歩も著しい。会話を瞬時に文字に変換するといったスマートフォンのアプリや、手話通訳者らが耳の不自由な人の電話利用をサポートする「電話リレーサービス」なども、障がい者の円滑な意思疎通を支えている。
また、聴覚に限らず、障がい者の雇用を支える法整備は進んでおり、例えば、障がい者の特性や困り事に合わせて障壁の解消を支援することが事業者に義務付けられたりしている。
障がいがあっても健常者と同じように働ける環境の整備は、職場全体の生産性を高めるメリットもあり、こうした流れは一層加速するだろう。
今回の大阪高裁の判決が他の障がい者にどう影響を与えていくかは、まだ見通せない。障がいの程度には個人差もある。
障がい者にとっての障壁を一つ一つ取り除いていく中で、誰もが働きやすい労働環境の構築を後押しすることが重要だ。