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【展望2025】変化する国際情勢
「自国ファースト」の様相
米新政権の外交に世界が固唾
東京大学東洋文化研究所教授 佐橋亮氏
2025年は、アメリカ大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏の外交に世界が再び震撼する年になりそうだ。法の支配や民主主義など、普遍的価値観とルールに基づいた国際秩序は弱まり、世界各国が自らの利益を追求していく「自国ファースト」の時代の様相が増していくだろう。
もちろん、トランプ外交を頭から否定する必要はない。トランプ氏は戦争を否定し、軍事力を偏重してきたこれまでのアメリカ外交のやり方を拒絶する、彼なりの平和主義者である。問題はその方法論だ。彼は自らの交渉手腕を誇り、時には恫喝や揺さぶりも辞さない。得られた結果が想定以下であっても、多くを勝ち取ったと主張する。結果によって多くを失うものがそれまでの仲間であっても、意に介さない。
前政権から、トランプ流の取引主義に同盟国も翻弄されてきた。今回、ウクライナ戦争の和平を実現するため、果たして彼の流儀が奏功するのか、世界は固唾をのんで見守ることになるだろう。北朝鮮との再交渉にも、トランプ氏は乗り出すという見方も多い。
中国とはどうだろうか。トランプ氏は前政権で米中対立を本格化させた。実力を増した中国の軍事力、政治力、経済力、さらに科学技術力に全面的に対応するように、同盟の強化や経済安全保障の仕組みが確立されてきた。だが、トランプ氏は前政権でも米中貿易交渉の第一段階合意を成立させており、一時だが米中は小康状態にあった。今回も、習近平国家主席に自らの大統領就任式への出席を招待するという異例のことを行っている。強い指導者を好むトランプ氏は、習氏と向かい合うことに誇りも見せる。
それでも、トランプ政権で貿易戦争は再燃するだろう。アメリカは、関税に加え金融面でも措置を取り、中国に妥協を迫るかもしれない。たしかに経済閣僚にはウォール街からの登用が目立つため極端な措置は難しいとの見方もあるが、トランプ氏の側近には対中経済の切り離しに積極的な者も再登板する。
米中対立の激化で経済へ影響不可避
中国を遠慮なく揺さぶれば、中国は近年導入してきた多くの対抗措置を本格的に発動するだろう。米中両政府が経済的な応酬に陥れば、それは不可避に世界経済を巻き込むことになる。
他方で、安全保障分野における米中対立の構図も変わらない。中国の成長した実力だけでなく、政治体制への批判も辞さない強硬派が政権に入る。これまでと異なることは、同盟国に多くの責任を求める姿勢となろう。経済安全保障の掛け声は残るが、他方で自由貿易にトランプ政権は関心を示さないため、各国は自らの利益をどう確保するか、問われていくことにもなる。
アメリカと世界の関わり合い方が大きく変わる中で、新たな国際関係のパターンがみられる年になりそうだ。国際社会を秩序づける大きな責任も、日本にのしかかってくる。