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児童生徒の“指導死”根絶へ指針改正
「不適切な指導」を抑止
広島県
教職員の暴言などで児童生徒が追い詰められ、自ら命を絶ってしまう事案は“指導死”と呼ばれる。広島県教育委員会は1日、教職員の懲戒処分に関する指針を改正。新たに「不適切な指導」を追加し、施行した。指導死の根絶へ、遺族の声を受け止めた公明県議が推進した。
■今月施行、教職員の懲戒処分に追加
遺族の声受け公明が推進
「息子のような悲劇を繰り返してはならない。指針の見直しが指導死を防ぐきっかけになれば」。こう話すのは、広島県東広島市の市立中学校に通っていた男子生徒の両親。2012年10月、当時中学2年生の男子生徒は休み時間に美術教材を廊下に置いたことで複数の教員から厳しい指導を繰り返し受け、所属していた部活動の練習参加も禁じられた。下校後、学校近くの公園で自ら命を絶った。
両親は15年6月、教員の不適切な指導が自殺の原因として提訴。市などに損害賠償などを求めた訴訟は、市が謝罪し、教員の研修など再発防止を図ると確約し、23年3月、広島地裁で和解が成立した。
全国でも指導死が問題となる中、文部科学省は22年12月に改訂した生徒指導の手引書「生徒指導提要」の中で、不適切な指導の具体例を初めて例示。▽大声で怒鳴る、物をたたくなどの威圧的・感情的な言動▽事実確認が不十分な思い込みによる指導▽指導後適切なフォローをしない――などを挙げた。文科省は23年10月、都道府県教委に対し、不適切な指導を懲戒処分基準に盛り込むよう通知した。
そうした中、公明党の井上謙一郎県議は男子生徒の両親を訪ね、県の指針を巡って懇談。「子どもたちを追い込む指導は絶対にあってはならない」との遺族の声を受け止め、23年12月議会で文科省の通知に言及しながら「不適切な指導の抑止を図り、子どもの命を守るため、児童生徒に対する暴言などの不適切な言動を県の懲戒処分規定に加えるべきだ」と訴えた。
24年5月には、公明党の栗原俊二県議が県議会文教委員会で「指針を早急に見直し、不適切な言動や指導に対する懲戒処分基準を定めるべきだ」と主張。会派を挙げて指針の見直しを粘り強く働き掛けた。その結果、県は同年11月に指針を改正すると発表。不適切な指導を「児童生徒に対して、人格や人権をおとしめる言動など教育上必要な範囲を逸脱した指導」と定義し、「悪質性、行為の常習性などを考慮し、停職、減給又は戒告とする」と明記した。
このほど男子生徒の自宅を訪ねた井上県議に対し、両親は「指針が改正され、びっくりした。正直、法律が変わらないと実現できないのかと半分諦めていた。井上さんの尽力に感謝している」と述べた。その上で「指導死を防ぐために、教職員への研修とともに、不適切な指導を把握するためのアンケートの実施や相談しやすい環境づくりを進めてほしい」と念願した。
井上県議は「現場の先生方が熱意を持って教育に専念できる環境を整えつつ、大切な子どもたちの命を守るため、これからも全力を挙げていく」と語った。