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コラム「北斗七星」
福島県大熊町に「久麻川」という地名がある。「くま」はかつて「苦麻」の字が使われていた。1200年ほど前に記された『常陸国風土記』にある。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の伝承活動を続ける、木村紀夫さんから教わった◆大熊町に暮らしていた木村さんは津波で家族3人を亡くす。町は原発事故で立ち入り規制され、次女の汐凪ちゃん(当時7歳)は5年9カ月後に遺骨の一部が見つかった。木村さんは今も汐凪ちゃんを探し続ける◆木村さんが語り部を務める時、聞き手に強く訴えることがある。「事前に避難先を考える」「経験者の後悔を生かす」「歴史から学ぼう」だ◆3.11前まで“福島に津波は来ない”との言い伝えがあった。木村さんも、そう考えた。「千年以上前の貞観津波(869年)を知っていれば家族に教えた。そうすれば汐凪は高台にいて助かったかも」と悔やむ◆木村さんは、事故を起こした東京電力を恨む感情と、原発の電気によって便利で豊かな生活を享受してきた事実の間で葛藤する。だが、電気を使ってきた一人として責任を感じ「教訓を世代から世代へつなぎ千年先まで伝えたい」と誓う。“苦い経験”を繰り返させぬために。(川)