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コラム「北斗七星」
20世紀のフランス文学で代表的な小説『嘔吐』。世界中で読まれた作品に、なぜか「釜石」が登場する。かの地を、作者のジャン・ポール・サルトルは、一度も訪れたことがない。書いた訳は、カマイシという音が美しいから◆世界へ「カマイシ」を発信する好機が近づいた。9月開幕のラグビーワールドカップ(W杯)だ。東日本大震災の被災地では唯一、岩手県釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで熱戦が繰り広げられる◆復興スタジアムは、大津波で全壊した旧鵜住居小学校と釜石東中学校の跡地を5メートルもかさ上げして造られた。あの3月11日、両校に在校中の児童、生徒は、いち早く高台へと避難し、全員無事だった◆だが、欠席していた3人が亡くなり、避難所の鵜住居地区防災センターでは、160人超の住民が犠牲となった。遺族らは、津波から命を守ろうと「あなたも逃げて」と刻んだ石碑を復興スタジアムに建立。W杯などを通し、世界に教訓を伝えようと英文の説明板も設置している◆前に本紙で公明党の井上義久副代表と対談した釜石シーウェイブスの桜庭吉彦ゼネラルマネジャーは「震災の記憶を未来につなぐ」との思いを述べた。W杯の釜石開催で「防災・減災の必要性が世界に広がり、つながっていくきっかけになる」(井上副代表)ことを願う。(川)