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コラム「北斗七星」
ベートーベンの9番目にして最後の交響曲「第九」。その初演から今年で200年を迎える。曲が完成したのは、彼が53歳の時。ウィーンの劇場で披露された◆彼はすでに聴力を失っていた。この時、聴衆の拍手に気づかなかった逸話が印象深い。交響曲第何番と呼ぶ習慣がまだない時代。中川右介氏の『第九 ベートーヴェン最大の交響曲の神話』(幻冬舎新書)で正式な曲名を知った◆「シラー作、頌歌《歓喜に寄す》を終末合唱にした、大管弦楽、四声の独唱、四声の合唱のために作曲され、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム三世陛下に最も深甚な畏敬をもって、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンによって奉呈された交響曲、作品百二十五」◆やがて彼の手を離れた「第九」は激動の近現代史を歩み、さまざまな機会に演奏される。ナチス政権下のドイツではヒトラーの誕生日を祝うために。米国では連合国の勝利を願う場で。戦後、冷戦の象徴だったベルリンの壁崩壊に歓喜して◆独裁者、勝利、自由と平和……。人はなぜこの曲を求めるのか。氏は著書でこう評する。「『第九』は、宗教も国家も、言語も、そして音楽すら超越した『何か』なのかもしれない」。(佳)