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女性の人権、日本の現状は
国連委が最終見解を発表
亜細亜大学教授・国連女子差別撤廃委員会委員 秋月弘子氏に聞く
国連の女子差別撤廃委員会は10月29日、ジェンダー平等に向けた日本政府の取り組みに対する審査の「最終見解」を発表し、選択的夫婦別姓の導入や国政選挙供託金の減額などの勧告を出した。選択的夫婦別姓についての勧告は、今回で4度目となる。委員会勧告の意義や女性の人権向上に向けた視点などについて、同委員会で委員を務める亜細亜大学の秋月弘子教授に聞いた。
膨大な作業経た国際的指摘
選択的夫婦別姓の勧告重い
――勧告の受け止めは。
私も委員の一人として勧告までの経緯を注目してきたが、審査は全体的にスムーズで、日本政府も現状を丁寧に説明できていたと思う。しかし、4回連続で同じ内容が勧告されるなど厳しい指摘があったように、国際社会から見た日本の現状として勧告を真摯に受け止め、条約義務の履行に向けて誠実に努力することが強く求められる。
――勧告を含む最終見解の意義とは。
私は日本国籍を持っているため日本の審査には一切参加できなかったが、委員会のメンバーは国別作業部会を作り、国連に提出されたNGOの報告書や国連機関がまとめた情報など入手可能な資料を基に綿密な研究・議論を重ねて最終見解を出している。私自身、これまで約140カ国の審査に携わってきたが審査に関する作業は膨大で責任の重さを感じている。
委員会のメンバー23人は5大陸からバランスよく選ばれ、職業や専門なども多種多様だ。文化や法体系の違いから激しい対立や議論に発展することもあるが、意見をすり合わせてコンセンサスを得ており、短絡的に決めているといった批判が見られる現状は遺憾だ。国際的な人権の専門家が見たグローバルな視点での日本への注文として真摯に向き合ってもらいたい。
――今回の最終見解の中で特に注目すべき点は。
間違いなく、選択的夫婦別姓制度の導入を勧告した点だ。私自身、旧姓の「秋月」で委員に立候補し当選後、国連では戸籍名しか使えないことが発覚したため、家族で話し合って書面上の離婚を決意した。幸い、外務省が国連に掛け合って旧姓での出席が認められたものの、日本の法律により離婚しなければならない現実に悔しさを覚えた。
何より、4回連続で勧告されている状況は非常に重い。この問題を巡っては家族観を理由にした反対論も見られるが、女子差別撤廃委員会は人権問題を扱う組織だ。あくまで女性の人権を侵害している点を指摘している。
――勧告への対応状況について、委員会はチェックするのか。
勧告の中でも最重要に位置付けるものを「フォローアップ項目」に指定しており、選択的夫婦別姓制度の問題も含まれている。これは、問題解決への進捗報告を2年以内に求め、国連の評価が公表されるものだ。言い換えれば、2年以内に何らかの成果を出す必要があり、前回は進捗が見られなかった。国際的な信用という点でも重要な2年を迎えることになろう。
ジェンダー専門機関設置を
――女性に対する人権意識の向上に必要な視点は。
世界的な課題として言えることは、やはり無意識の中にあるジェンダーステレオタイプだ。「女性らしさ」「男性らしさ」といったジェンダー意識は、いまだ大きい。全ての人が一人の人の権利と尊厳を尊重する上で自らの振る舞いを日々振り返ることが必要だ。
――日本については。
二つ指摘したい。一つは、ジェンダーギャップ指数を押し下げている政治分野の改善だ。やはり、クオーター制の導入などで女性の政治家を増やすべきだ。ジェンダー差別は社会構造の中に根付いており、社会を変えるには法律こそ重要な意味を持つ。法律の中に隠れている間接差別などを洗い出すには、女性の政治進出は欠かせない。
もう一つは女性政策を扱う省庁や国内人権委員会の設置だ。政府にはジェンダー問題について専門的に教育を受けた人材がいない。これでは、国際的な動向を精査して政策に反映させることは難しい。省庁の設置が難しいなら人権委員会にジェンダー担当者を置くことも一案だ。先進国でこうした体制がないのは日本だけと言っても過言ではない。今こそ対策に本腰を入れる姿勢を政府に求めたい。
あきづき・ひろこ
1959年生まれ。国際基督教大学大学院博士課程修了。博士(学術)。国連開発計画インドネシア常駐代表事務所プログラム担当官、国連貿易開発会議コンサルタントなどを経て、2002年から亜細亜大学教授。19年から国連女子差別撤廃委員会委員を務め、23年、同委副委員長に就任。
国連女子差別撤廃委員会
1979年に採択され、これまでに189カ国が締約している「女子差別撤廃条約」の履行状況を監視する組織。専門家23人が委員を務め、女性の差別撤廃に向けた締約国の取り組みを審査する。NGOなどのレポート審査や政府への対面審査を経て、勧告や要請を含む最終見解を発表する。