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衆院選、SNSどう使われたか
メディア専門家・ネットコミュニケーション研究所代表 中村佳美氏に聞く
先月の衆院選では、各党がSNSの活用にこれまで以上に力を入れ、議席数を伸ばす政党も見られた。SNSがどう使われ、選挙結果にどのような影響を与えたのか。メディア専門家でネットコミュニケーション研究所代表の中村佳美氏に聞いた。
■有権者に“身近さ”訴え
ショート動画、ライブ配信が好調
――衆院選でSNSはどう活用されたか。
各党の小選挙区候補のアカウント所有率を分析したところ、フェイスブックやX(旧ツイッター)は頭打ちの印象だが、インスタグラムは、前回より17%増え、活用が伸びていた。
また、コンテンツで見ると、ユーチューブやティックトックなどの動画メディアを駆使したショート動画やライブ配信が特徴的だった。特に国民民主党、参政党、れいわ新選組は、ショート動画とライブ配信の視聴が好調で、躍進の原動力になった可能性がある。
――国民民主党は議席を4倍に伸ばした。
国民民主党は、SNS戦略が他党より勝っていたと思われる。ユーチューブのショート動画とライブ配信において、選挙期間中の視聴回数(中央値=一つのコンテンツがどれだけ視聴されたかという平均的な値)が、それぞれ3万回と5万回でトップだった【グラフ参照】。玉木雄一郎代表個人のアカウントによるライブ配信は、自党の公式アカウントなどよりも群を抜いて視聴されていた。
特に目立っていたのは、有権者と双方向のコミュニケーションを重視していた点だ。連日行っていたライブ配信では、代表や幹事長が各候補者を紹介しながらリアルタイムで視聴者からのコメントに反応したり、支持者が作成した応援コンテンツを紹介したりした。また玉木代表のユーチューブチャンネルでは、寄せられたコメントを読みながら「ありがとう」「よかったら投票行ってね」と直接話し掛けるなど、より有権者に“身近さ”を訴えていた。
――他の政党は。
議席を伸ばした参政党やれいわ新選組に関しても、党首が衆院選以前から党の顔として前面に出て発信していた。そうした党首自らが日常的に発信を行い、これまで築いてきた信頼関係が、今回の選挙での支持拡大につながったのではないか。
一方で自民党は、身近さを訴えるようなコンテンツが控えめで、長尺の動画CMに重きを置くなど、保守的なSNS戦略にとどまったという印象だ。
■都市部、若者に影響力
――SNS上の人気と選挙結果の関係は。
これまで学術的な見地からは、ネット上の人気と選挙結果は、なかなか結び付かないものとされてきた。しかし今年7月の東京都知事選では、政党をはじめとする支持基盤を持たない候補者がSNSを駆使して躍進するなど、その威力は年々高まっている。
今回の衆院選では、特に人口密度の高い都市部ほど、ユーチューブやXが盛んに活用されている傾向が強く、地方ほどLINEなどの活用が盛んだった。小選挙区候補のユーチューブの視聴数とXのフォロワー増加数は、1平方キロメートル当たりの人口密度が3001人以上の選挙区では、349人以下の選挙区よりも2倍以上多かった【グラフ参照】。
若者への影響も無視できない。今回、ネットをよく利用している20代から40代の若年層が1番投票したのは国民民主党だったとの報道各社の調査結果がある。国民民主党のユーチューブのライブ配信やショート動画を目にして、政策などに共感した人たちが投票行動に結び付いた可能性が大きいのではないだろうか。
――反響の大きいショート動画の内容は。
人柄が伝わるようなカジュアルなショート動画がよく見られている。視聴したときに、「○○候補も私と同じ△△推しなんだ」といった具合で、いい意味で共通点が生まれ、共感につながるなど、支持者の幅を広げるのに効果的だ。そうしたショート動画と、有権者と直接対話するライブ配信などを組み合わせた戦略が、今後ますます効果を上げていくだろう。
一方で、政策を語る難しい動画は見られにくい傾向にある。それらを見ようとしてくれる既存のファンに向けたコンテンツと、新しい支持層を広げていくためのコンテンツは、今後はさらに切り分けて考えて用意する必要がある。
■“顔の見える政治”体現へ
双方向の交流にも活用を
――公明党については。
実は、悪い点があまり見つからない。カジュアルなショート動画の配信をはじめ、LINEの友だち登録者数は最も多く、しっかりと基盤があり、一定の支持層への浸透は成功している【グラフ参照】。議席数を維持できなかったのは、与党への逆風が、それだけ大きかったのではないか。
■思いを日々発信し信頼広げる
ショート動画配信などの取り組みの効果を上げていくためにも、公明党に今後期待するのは、政治家が加工されていない、ありのままの姿で有権者に直接声を届けたり、聴いたりして双方向で交流できるライブ配信だ。短い選挙期間だけで自分の人柄を伝えるのは難しい。日々の活動の中で政治家自身の思いを共有し、その思いに共感してくれる支持者との信頼関係を広げて、しっかり固めておくことがカギになる。
「SNSはやることが大事」というのは、一昔前のイメージで、現代においては単なる情報発信だけでは信頼感や親近感につながりにくい。さらに一歩踏み込んで、SNSを「顔の見える政治」を体現するツールとして活用し、日頃から幅広い有権者と交流を深め、所属議員らの“人となり”を知る人の裾野を広げていくことが大事だ。
■都議選、参院選に向けて
――来年には都議選、参院選がある。
都議選は大都市部で行われ、SNSの重要性が高まる。参院選でも全国比例区があるため、ネットの活用はさらに盛り上がるだろう。各政党も動画戦略において、縦型動画による政見放送の作成やライブ配信など、時代に対応した戦略を練る必要がある。
一方、SNSの支持が、直接的にすぐ票に結び付くとは限らない。よく投票に行く50代以上の世代は、従来メディアであるテレビや新聞から情報を取っており、あまりSNSを見ない。現状では、SNS上の影響は、都市部や若年層という特定の層に偏る傾向が見受けられる。ネットをあまり利用しない人の割合が増えてくる50代以上の人には、従来メディアと掛け合わせた戦略をとるなどして、どうアプローチするのか多角的に検討していく必要がある。
■“地上戦”との両輪で大きな効果を発揮
確かにSNSの影響力は大きくなっているが、それ以上に“地上戦”が大事であることは依然、変わらない。政治家が、足を運んで、握手をして政策や思いをしっかり伝えていくという現場が主戦場となる。公明党はそうした“地上戦”を今後も大事にしながら、選挙前から継続して顔の見えるようなSNSを活用し、従来の支持者以外にも、交流の輪を広げていけば、より大きな効果を発揮するだろう。
なかむら・よしみ
高知県出身。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門は政治のSNS活用・ネットメディア戦略。国内外のパブリック現場(行政・政治)におけるデジタル広報戦略やSNS活用の調査、データ分析を手掛けるシンクタンク「ネットコミュニケーション研究所」を2022年に設立。












