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2024年6月4日

新しい自衛隊の姿

統合作戦司令部の創設と課題 
小川和久静岡県立大学特任教授に聞く

自衛隊に統合作戦司令部を今年度中に創設する改正自衛隊法が与党と立憲民主党などの賛成多数で5月に成立した。自衛隊は2006年3月から陸海空の「各自衛隊ごとの運用」から「統合運用」を基本とする体制に移行している。今回の統合作戦司令部の創設は統合運用の機能強化を図ると同時に、4月の日米首脳会談で確認された日米同盟の強化に基づく共同対処能力の向上もめざす。統合運用と日米共同対処、さらに災害派遣に関する自衛隊の新しい姿について静岡県立大学の小川和久特任教授に聞いた。

■(米軍との連携)それぞれの指揮権の下で役割分担進める

――統合運用のための統合幕僚監部があるのに、なぜ統合作戦司令部なのか。

小川和久特任教授 統合幕僚監部があっても統合幕僚長は1人だ。それでは実際に自衛隊を機能させることもできず、首相や防衛相の補佐も不十分になってしまう。統合幕僚長の経験者は「首相の補佐に7割のエネルギーが必要。これでは緊急事態に対処できない」と言っていた。

そこで、統合幕僚長は首相と防衛相の補佐をし、陸海空幕僚長と同階級の人が最高指揮官として部隊を運用する体制が必要だとの考えになった。

――林芳正官房長官は「統合作戦司令部が米軍の指揮・統制下に入ることはない」と述べたが、米軍との一体化は進むのでは。

小川 米軍の「指揮下に入る」と「一体化」は区別すべきだ。

韓国軍は有事に在韓米軍司令官の指揮下に入ることが取り決められているが、日本にはそうした取り決めがないため米軍の「指揮下に入る」ことはない。

「一体化」については、乱暴な言い方をすれば、もう「一体化」している。

日本防衛で米軍が必要とする部分を自衛隊が補い、共同で総合力を発揮することは「一体化」と言えなくもない。しかし、指揮権が違うのだから懸念されているような「一体化」ではない。米軍と自衛隊の役割分担ということであり、その役割について調整を進めればいい。

――「自衛隊は盾、米軍は矛」なのに、22年末の国家安全保障戦略など3文書改定で、日本は反撃能力という「矛」の整備を決めた。統合作戦司令部はこの「矛」を使うために米軍との調整をすることが目的だとの見方もある。

小川 「盾と矛」は厳密な言い方ではない。あえて使うなら、自衛隊は米国の戦略的根拠地である日本列島を守る「盾」だが、攻めてくる敵を自衛隊なりの攻撃力でたたく任務はもともとあった。米軍は日本防衛のために日本列島の外で戦う「矛」だ。外で戦う米軍部隊を守るために自衛隊が「盾」の役割をするのか。それはあり得ない。

自衛隊の反撃能力は相手国に攻め込む「矛」ではなく、相手に日本への攻撃をためらわせるためだ。

――専守防衛も何も変わらないのか。

小川 変わらない。米軍との連携強化について、専守防衛の範囲内でどこまで協力するのかを議論するのは国会の仕事だ。

安全保障環境は常に変化する。改善すべきは改善していく作業を国会は繰り返していかないといけない。

■(災害への対処)自衛隊の能力向上に/行政側の対応も必要

――統合作戦司令部によって災害派遣も変わるか。

小川 自衛隊の災害派遣能力はさらに高まると思う。

5月の自衛隊統合防災演習は、統合作戦司令部が設置済みという想定で実施されている。災害は、武力攻撃事態など有事に自衛隊が機能するかどうかのテストの場となる。東日本大震災のような大災害の場合は統合作戦司令部で運用することになる。

――統合作戦司令部による災害派遣の場合、政府や地方自治体との関係はどうなるのか。

小川 自衛隊の運用能力が向上するので、自治体との連携は円滑になると思う。

政府の場合は、内閣府や消防庁などが防災を担当しているが、統合作戦司令部と同じような位置付けで、日頃から災害対処の能力向上に取り組む体制はまだできていない。

やはり、危機管理庁のようなものがないといけない。そこが統合作戦司令部と日頃から連携を取っていく体制が大事だと思う。

――危機管理庁には消極論も強い。

小川 政府は「今の体制で対処できる。屋上屋を架すだ」と言う。それに対し「屋上屋というが、1階の部分もないではないか」と具体例を挙げて反論してきた。国民と国土を守るためにしっかり議論をしてほしい。

新しい組織をつくるときは必ず抵抗がある。私は日本が米国のNSC(国家安全保障会議)を参考に国家安全保障局を創設した際に、同様の組織を創設した経験のある台湾とオーストラリアのリサーチをした。両国とも既存の省庁の抵抗に遭ったが、戦争とか大災害とかについて本格的な図上演習を実施し、新たな組織の必要性を抵抗勢力に認識させた。こうした検証をしないと必要性は理解されない。

――統合作戦司令部の創設はそうした議論の契機になるか。

小川 統合作戦司令部の機能をモデルとしながら危機管理庁なりを整備する方向が生まれてくれば良いと思っている。

おがわ・かずひさ 1945年生まれ、軍事アナリスト。外交・安全保障、危機管理の分野で政府の政策立案に関わり、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査など歴任。2012年4月から現職。『日本人が知らない台湾有事』など著書多数。

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