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下水汚泥から肥料原料
リン回収で新システム
東京都
JA全農と連携し製品の広域流通めざす
化学肥料の原料として欠かせない「リン」。資源の少ない日本は、ほぼ輸入に頼ってきたが、近年、中国の輸出規制やロシアのウクライナ侵略などが原因で価格が高騰した状態が続く。こうした中、下水の処理過程で発生する汚泥から、リンを回収する取り組みが注目されており、政府も肥料の安定供給に向けて後押ししている。2023年度から、実証事業を始めた東京都の取り組みを追った。
東京23区東部地域などからの下水を処理する砂町水再生センター(江東区)。隣接する東部スラッジプラントに今年1月末、リン回収施設が整備された。
23区内に13ある下水処理施設のうち、6カ所で発生した下水汚泥が集められ、水分を取り除いて焼却する。この処理過程で発生した廃水(脱水分離液)に高濃度のリンが含まれている。
実証事業では、脱水分離液に、吸着性などに優れた粉末状の資材を投入してリンを取り出す新しいシステムを試行。カドミウムや水銀など重金属が混入する可能性は少ないという。この施設では、年間約70トンのリン生産が可能で、現在、リン回収率や品質の向上、コスト抑制に向けて実証実験を進めている。
下水に含まれるリンは海に流れると、赤潮の発生原因になる。これまで微生物などを活用した高度処理が行われてきたが、処理水質の向上を図る観点から、今回の事業に着手。これにより、さらなるリンの除去が見込まれ、東京湾の水質向上につながるだけでなく、それを肥料原料として有効活用できる。
昨年12月、全国農業協同組合連合会(JA全農)と広域での肥料利用に向けた連携協定を締結。これまで、自治体と地域のJAとの連携はあったが、全国組織と連携したのは今回が初めて。
都によると、今夏をめどに、下水由来のリンを原料として肥料製品の開発や試験栽培などに取り組み、将来的に安定して供給できる体制をめざす。都下水道局の担当者は「農業者への理解など課題は多いが、JA全農と連携して流通経路の確保などを進めたい」と話す。
国、施設整備へ支援強化
食料安全保障強化政策大綱の策定などを提言する党農林水産業活性化調査会と農林水産部会=2022年12月14日 農水省
国土交通省の22年度の調査によると、全国の下水処理場の約半数が下水汚泥の肥料利用に取り組んでいるが、年間の汚泥発生量約230万トンのうち、実際に肥料化へ利用されているのは1割程度で、5割が建設資材に活用されている。
そこで、国交省は昨年3月、自治体向け通知で、下水汚泥の処理について、肥料としての利用を最優先し、最大限に利用する基本方針を明確化。さらに、リン回収施設などの施設整備を支援する新たな事業を24年度から創設するほか、下水汚泥の肥料化に関するマニュアルを策定するなど、自治体への支援を強化する。
このような施策が進む背景には、公明党の提言を受け、政府が22年末に、食料安全保障強化政策大綱を策定したことが大きい。
同大綱では、30年までに下水汚泥資源・堆肥の使用量を倍増し、リンをベースにした肥料の使用量に占める国内資源の利用割合を40%(21年は25%)まで拡大するという目標が掲げられている。
■都議会公明が推進
都議会公明党は、22年11月の公営企業会計決算特別委員会で、下水汚泥を農業肥料として利用する先進事例を取り上げ、同様の取り組みを実施するよう働き掛けていた。さらに、昨年12月の定例会本会議、今月13日の予算特別委員会でも重ねて質問するなど、都の取り組みを後押ししている。
安全性など情報開示重要 東京大学下水道システムイノベーション研究室 加藤裕之特任准教授
将来的にリン輸入が困難になるリスクを考えると、リン回収などで肥料の国産化を進める意義は大きい。下水汚泥について、政府が肥料利用を最優先とする方向性を示したことは高く評価できる。
下水処理場、農家、消費者へと至る「循環の輪」を形成していくには、農家が安心して肥料を使えるようにすることが大事だ。
特に、下水汚泥に含まれる重金属を懸念する農家は多い。丁寧な説明が不可欠になる。
そこで、透明性の確保が重要になる。下水汚泥の肥料利用が8割を超えるフランスでは、成分や安全性、生産場所といった情報の公開が行われている。
東京都の下水処理量は全国の約1割を占める。全国でリン回収が進むよう、技術的な方法を示すなどリーダーシップを発揮してほしい。それが、わが国の食料安全保障の確保にもつながっていく。