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教育 災害時、子どもの心のケアとは
甘えさせる、話を聴く、そばで安心感を与える
能登半島地震の発生から1カ月がたちました。被災者は長引く避難生活で、大きなストレスを抱えています。子どもはなおさらでしょう。災害時、親が気付ける子どもの心のケアについて紹介します。東日本大震災で支援に当たっていた愛知県にある、「ひだまりこころクリニック」の医師・野村紀夫理事長に話を聞きました。
私は2011年に東日本大震災が起きた際、愛知県の「こころのケアチーム」の一員として、発災約2週間後と、約半年後の2回、宮城県内で支援に当たりました。
主な活動内容は、被災地で対応の必要だった精神面で調子の悪い人、あるいは新規で病を抱えてしまった人に対する診察でした。そしてカルテ作成や薬の処方を指示し、次に来るケアチームにつなげられるよう動いていました。
大規模災害は、強い恐怖感や不安感、無力感をもたらします。そこから不眠や無気力状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病などの症状が現れ始めます。3.11で被災した6歳の男の子は、震災から3カ月後、突然の恐怖感に襲われ、学校に行けなくなりました。夜になると、また地震が来るのではという不安を訴え、時には朝ご飯を吐き出してしまうこともありました。また、能登半島地震でも、学校の生徒の中で、頭痛の症状があったり自宅に戻ることを訴えたりする場面があったそうです。
一般的に、子どもは災害弱者に位置づけられます。このことを踏まえ、親が子どもにできる具体的なケアをお伝えします。
■吐き気や腹痛も“SOS”のサイン
まだ小学校の低・中学年の場合は、言葉で伝えるのが難しいので、吐き気や腹痛のように、体から“SOS”を出します。あとは急に甘えてきたり、いたずらしたりします。
親はスキンシップを多く図り、安心感を与えてください。意味のあるいたずらです。たとえ、少しいたずらしても腹を立てず、ささいな話題でも耳を傾け、遊び、一緒に過ごす時間を増やしましょう。
小学校高学年になると、いわば半分大人、半分子どもといえます。したがって、つらい経験や苦しい感情を無理に話させる必要はありません。その代わり、同年代の友だちらと関わりが持てる場を持たせてください。ストレス発散だけでなく少しずつ日常を取り戻すことにつながります。
中学生、高校生は、大人とほぼ同じ扱いで構いません。しかし、思春期を迎えて情緒不安定な部分が多いため、ありのままの感情が出せるよう温かな見守りと声掛けをしましょう。
小学校高学年以上の多くは、自分のスマートフォンを持っているため、SNSで発信される災害の映像に触れて再体験しやすくなります。耐えられないと感じるなら利用を控えるよう促すのも必要です。
■親も無理を重ねない
元気のない子どもは、自分が励まさなくてはと思うのが親心です。しかし、無理を重ねて親御さんが倒れたり落ち込んでしまったりしたら元も子もありません。ご自身の心身の健康を守ることも忘れないでください。
その上で、よく眠れない、イライラしやすいといった体の不調を感じたら、医師の診察を受けてください。困ったときはお互いさまです。遠慮なく周りに助けを求めましょう。
■(能登半島地震)児童電話相談、37人の利用も
能登半島地震では、石川県で休校中だった公立の小学校6校、中学校1校も、6日に登校が再開され、これで同県の休校が解消されました。しかし、多くの地域で断水が続いている上、家に住めない状態のため、避難先からオンラインで授業を受ける生徒がいるなど、大変な状況は変わっていません。
こうした中、行政側も傷ついた子どもの心のケアに、支援を行っています。
その具体的な取り組みの一つとして同県では、先月15日より、専用ダイヤル「能登半島地震・子供のこころ相談テレホン」(電話0120.48.0874)を開設しました。
精神的ショックを負い、厳しい生活を余儀なくされている児童・生徒の安心感や安全感を回復させるための心のケア、進路、学習相談が目的です。
開始から5日現在までで、37人が利用しており、県担当者は「一人で抱え込まず、こうした相談窓口を遠慮なく利用してほしい」と話します。
また、宮城県石巻市では、3.11の経験を踏まえ、今回の地震で被災した妊婦や子育て中の親を対象とした電話相談を設置しています。
当時、同じような状況に置かれていた市の子育て世代包括支援センターのスタッフが対応します。被災した当事者だからこそ分かる気持ちがあるという取り組みといえます。