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【主張】非常時の国の権限 自治体支えるルールの整備を
コロナ禍を教訓に、非常時の国と地方の役割分担を見直す議論が進んでいる。大規模災害の発生や未知の感染症流行に備え、平時のうちに国民の命や健康、安全を守るルールを整備しておくことは重要だ。
政府の地方制度調査会は10月23日、感染症のまん延などの非常時における国の権限のあり方に関する答申素案を公表した。
現在、非常時の国の権限については、感染症法や災害対策基本法といった個別の法律に規定されており、それらに明記されていない想定外の対応が必要になった場合にどうすべきかのルールはない。
実際、コロナ禍では、クルーズ船の集団感染で自治体が行うべき患者の入院先の調整を国が担わざるを得ない事態が発生したり、自治体に権限がある病床の確保や保健所機能の強化について、国が要請しても自治体が迅速に対応できないケースなどが相次いだ。
そこで今回の答申素案では、国民の安全などに重大な影響を及ぼす非常時の場合には、個別法に規定がなくても国が必要な対応を実施できるよう、地方自治法に国と地方の関係に関する特例を設ける必要があると指摘。具体的には、自治体の業務が滞った場合などに国が指示権を行使できるようにすることが検討されている。
大事なのは、どういう事態を「非常時」と判断するのか、さらには国の指示権を発動する手続きをどうするか、という点だ。
素案では、事態の規模を都道府県での対応が難しい「全国規模」としたり、指示権について閣議決定を経なければ行使できないとする要件を課している。
非常時の対応とは言え、地方分権や自治体の自主性に対する一定の配慮は必要だろう。その意味で、新法ではなく、地方自治のあり方を定める自治法の改正で対応することは、現実的であり評価できる。
国が自治体と協力して非常時を乗り越えるため、指示権については自治体をサポートする観点で、丁寧な議論を進めるべきだ。