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【主張】「核の棺」老朽化 国連が警告。国際社会の支援必要
太平洋中西部にあるマーシャル諸島は、米国の核実験が行われた場所として知られる。ここには「核の棺」と呼ばれるコンクリートでできたドーム型の建造物があり、核実験で生じた大量の放射性廃棄物が封じ込められている。
しかし、今、核の棺の老朽化が深刻視されている。
国連のグテレス事務総長は先月、コンクリートにひび割れが目立ち、放射性物質が漏れ出る危険が高まっていると警告。この問題に国際社会は真剣に向き合う必要がある。
米国は1946年から58年まで、マーシャル諸島のビキニ環礁で23回、エニウェトク環礁で44回の核実験を実施した。ちょうど65年前にビキニ環礁で行われた、世界初の実用化可能な水爆実験は、日本のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員も被ばくし、広範な放射能汚染をもたらした。
ビキニ環礁の汚染は深刻だが、エニウェトク環礁については、退去させられた住民の帰還が可能であるとされた。米国は、そのための環境を整備するため、79年に核の棺を同環礁に建造。約8万5000立方メートルもの容量の放射性廃棄物を、この中に封じ込めた。その老朽化が今、問題となっているのだ。
さらに、地球温暖化が事態を一層深刻にさせている。グテレス事務総長は、地球温暖化の影響で海面上昇が加速すると、核の棺が海面に接し、ひび割れから海水が内部に流入すれば、放射性物質の漏出が拡大する恐れがあると警鐘を鳴らしている。
ここで思い出したいのは、2017年に採択された核兵器禁止条約の条文である。公明党は同条約を、核廃絶に向けた歩みを一歩前進させるものとして評価している。
同条約には、核災害からの「環境の回復」を求める条文がある。この規定は、他のどの核軍縮条約にもない。核兵器禁止条約を巡る核保有国と非保有国の対立はあるが、核の棺問題は、環境の回復という、核軍縮の新たな観点からの国際協力を迫る契機となっているのではないか。
マーシャル諸島は1986年に独立国家になったが、放射能汚染による健康や環境への影響に対処できる専門家の育成が遅れており、国際社会の支援が必要である。