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増加する単身高齢者 自治体が終活支援
神奈川・横須賀市などの先進事例から
“おひとりさま”とも呼ばれる単身高齢者は、この20年で倍増して約670万人(2020年)となり、40年には約900万人に達する見込みだ。頼れる家族がおらず、亡くなった後、遺体を引き取る人がいなければ、無縁遺骨となってしまう。こうした課題と向き合い、本人の尊厳を守る終活支援に取り組む先進自治体を追った。
【神奈川・横須賀市】
本人の“意思”を生前登録
官民連携で希望に沿う葬送も
全国に先駆けて自治体による終活支援を始めた神奈川県横須賀市では、引き取り手のいない遺骨がこの30年間で5倍に増えている。その多くは生前の身元が分かっている一般市民だという。
「本人は葬儀費用をためていたのに、親族が見つからず直葬(葬儀のない火葬)せざるを得ないケースもあった」と明かすのは、市地域福祉課福祉専門官の北見万幸氏だ。
以前は、住民票や戸籍から親族の氏名と住所を調べ、電話番号案内(104番)で照会すれば連絡できたが、携帯電話が普及し、固定電話が減ったことで親族への電話連絡が難しくなった。
そこで同市では、二つの終活支援事業を始めた。一つは、15年7月に始めた「エンディングプラン・サポート事業」(ES事業)だ。利用者は市の協力葬儀社と生前契約して費用を預け、亡くなった後は、市と協力葬儀社が連携して葬儀や納骨を行う。対象者は、民間事業を阻害しないよう、身寄りのない低所得の単身高齢者に限定。費用は26万円(生活保護受給者は5万円)に抑えられている。
昨年度までの登録者は124人。そのうち52人が亡くなり、生前に希望した形での葬送が行われ、本人の意向が尊重された。同事業がなければ葬儀もないまま市が火葬することになっていた。事業開始以来、1000万円以上の市税削減にもつながっているという。
同市が18年5月から行っているもう一つの事業が「終活情報登録伝達事業」だ。緊急連絡先やエンディングノート(終活ノート)の保管場所、墓の所在地など計11項目の情報を市に登録できる。
万一の際に、警察や医療機関などからの問い合わせに市が対応し、本人に代わって登録情報を伝える。年齢や所得などの利用制限はなく、登録者は670人を超える。北見氏は「引き取り手のない遺骨の問題が注目されるが、実は、それは生前の身寄りなし問題であり、死後の遺留金品や空き家をどうするかという問題と根本は同じ。それらに関する情報を生前登録できる公的サービスは多くの地域で必要になるはずだ」と強調する。
【東京・豊島区】
23区初 相談窓口を開設
東京都豊島区は、都内23区では自治体初となる専用窓口「終活あんしんセンター」を21年2月に開設した。相続や遺言、葬儀など、終活全般について相談できる。
区の委託で区民社会福祉協議会(社協)が運営。相談件数は累計で約2000件に及ぶ。社協の小林純子・地域福祉課長は「センターが社協内にあることから、見守り訪問や成年後見制度の利用など、社協の既存サービスに円滑につながるケースもある」と話す。
22年4月には「終活情報登録事業」を始め、今年8月時点で34人が登録した。社協では来年度から、日常の見守りや入退院支援、葬儀、家財処分などをパッケージで支援する新規事業も実施予定だ。
自治体の終活支援について実態調査を行った高崎経済大学の八木橋慶一教授によると、エンディングノートの配布を行う自治体は300近くに上る一方、横須賀市のようなES事業や情報登録のいずれか一つでも実施する自治体は20未満だった。総務省の調査では、全国の市区町村が保管する無縁遺骨は増加しており、21年10月時点で約6万柱に上ることが判明している。
八木橋教授は「自治体による終活支援は、まだ限定的だ。引き取り手のいない遺骨が全国的に増えている中、行政の役割を明確にする時期に来ている」と指摘する。
尊厳守る仕組みつくる
党社会的孤立防止対策本部総合本部長代理 山本香苗 参院議員
家族の形が変容する中、家族に代わって高齢者の人生の終盤を支えるサービスへの需要が高まっていますが、そもそも、こうしたサービスを提供する事業を規制したり監督する省庁や法律がなく、どのような事業者がどこに幾つ存在するかも把握されていません。
家族の有無にかかわらず、誰もが安心して生きていき、亡くなった後も尊厳が守られる仕組みが必要です。そのため、公明党社会的孤立防止対策本部は2021年5月、菅義偉首相(当時)に対して身寄りのない人への対応に関するガイドライン策定などを提言したほか、身元保証人の問題について繰り返し対応を訴えてきました。引き続き、国と地方のネットワークを生かし、対策を進めていきます。