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高校生の就活慣行 動き出す「1人1社制」見直し
生徒と企業のミスマッチ……
早期離職の多さの要因に
政府の教育再生実行会議が今月17日に安倍晋三首相に提出した第11次提言には、「1人1社制」と呼ばれる高校生の就職活動だけに見られる慣行の見直しが高校改革の一つとして盛り込まれた。近年、高卒就職者の早期離職の一因と指摘されており、公明党の主張を反映したものだ。1人1社制を巡る現状を追った。
1人1社制は、1人の生徒が応募できる企業を一定期間1社に制限するものだ。高校による職業あっせんの仕組みとして半世紀以上前から存在する。都道府県ごとに都道府県、学校、産業界、労働局が毎年、話し合って決め、2018年度時点で秋田県、沖縄県を除く45都道府県で運用されている。
1人1社制のメリットは大きく三つ。まず、多くの生徒に応募の機会を公平に与え、卒業までに、より確実に内定を得られる点。次に、生徒と企業のマッチング(引き合わせ)を短期間に行うことができ、学業などへの影響を最小限に抑えられるほか、生徒自身の身体的・心理的・経済的な負担を軽減できる点。三つ目が、内定辞退が原則認められておらず、求人企業にとっても計画的・効率的な採用が可能な点だ。
本人の意思尊重を。多様な選択肢 提示すべきだ
専門家
「うちの会社を頼ってやって来る若者たちの中には高卒の早期離職者も多い」
こう語るのは、高卒など非大卒の若者を専門に受け入れ、人材に育てる「株式会社ハッシャダイ」(東京都渋谷区)の久世大亮代表取締役(25)だ。創業4年で300人以上をIT企業などに送り出した。
久世さんが高校での就活につまずく若者が多い理由として挙げるのが、高校から紹介される企業と生徒のミスマッチだ。大学生の就活のように、複数の企業に接触して比較検討できない「1人1社制による弊害」とも指摘する。久世さん自身、高校時代の進路相談で勧められた就職先に満足できず、仕方なく大学に進学した過去があり、それが起業のきっかけだという。
実際、今春卒業した高校生の就職率は98.2%と、バブル期並みの高水準だ。日本経済が堅調なことに加え、1人1社制が寄与していると考えられる。半面、15年春に高校を卒業して就職した人の約4割が3年以内に仕事を辞めている。大卒者の約3割と比べて高い要因として、1人1社制を挙げる声がある。
1人1社制の下、生徒が担任や進路指導担当らと応募先企業を絞り込む過程で、生徒本人の意思が尊重されづらいケースがあるのではないか。また、大学生の就活では主流となっているように、求人サイトなど民間サービスを活用し、多様な就職の選択肢を生徒に提示すべきだ――。専門家からはこうした問題提起も聞かれる。
党教育改革本部 首相に提言
安倍首相(中央右)に提言を手渡す党教育改革推進本部=15日 首相官邸
1人1社制の見直しについては、公明党教育改革推進本部(本部長=富田茂之衆院議員)が今月15日に安倍首相に行った提言の中で主張。これに対し安倍首相は「柔軟な見直しが必要」と応じ、政府の教育再生実行会議から直後に提出された第11次提言にも、公明党の主張通り、「当事者の声も取り入れながら、よりよいルールとなるよう検討を進める」と明記された。
現在、文部科学省、厚生労働省、経済団体、学校関係者、学識経験者からなる「高等学校就職問題検討会議ワーキングチーム」が、1人1社制に関する具体的な課題の整理を進めており、今年11月ごろに報告書を取りまとめる予定だ。
高校生の就活の流れをまとめると、まず、文部科学省、厚生労働省、全国高等学校長協会、主要経済団体で構成する「全国高等学校就職問題検討会議」で毎年、全国統一的な日程が決まる。
2020年3月に卒業する高校生の場合、企業がハローワークに求人を申し込めるのは6月1日以降、企業が高校に求人票(ハローワークの確認印のあるもの)を送付したり、訪問できるのは7月1日以降、高校が企業に生徒を推薦できるのは9月5日(沖縄県は8月30日)以降、企業による選考・採否の決定は9月16日以降となっている。
例えば、東京都では、求人申し込みの開始日を6月3日とし、9月5日から30日までは1社しか応募が認められていない。