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2023年7月26日

曲がる次世代の太陽電池

再エネ主力電源化へ カギ握る

温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素社会の構築へ、次世代の太陽電池として期待される「ペロブスカイト太陽電池」の実用化に向けた動きが加速している。薄くて軽く、曲げられるのが特長で、場所を選ばずに設置できるといった利点がある。世界でも研究開発が盛んになる中、政府は今年4月、2030年までに普及させる方針を打ち出し、早期実用化を後押ししている。

▼薄くて軽く高い柔軟性
▼雨天や室内光でも発電
▼主な原料は国内で調達

期待される さまざまな用途

屋根の上や広大な敷地に設置されるなど、現在最も普及しているのは、耐久性のあるシリコン系太陽電池だ。国内市場の約95%以上を占めているとされる。

シリコン系は、太陽の光エネルギーを電気に変換する割合を表す変換効率が良く、高いものは26%を達成している。一方、重くて曲げることが困難なため、設置場所が制限されるほか、製造段階で高温の熱処理を要し、電力消費が大きいといった課題がある。

そこで今後の飛躍的な普及が期待されているのが、ペロブスカイト太陽電池だ。鉱物の一種である灰チタン石(ペロブスカイト)と同じ結晶構造を持つ材料を使用しており、発電層は髪の毛より薄い1000分の1ミリほど。シリコン系に比べ、厚さは約100分の1、重さは約10分の1程度に抑えられ、柔軟性にも優れる。研究レベルではシリコン系に並ぶ変換効率を達成している。

製造工程は、材料を含む溶液をフィルムなどに塗って乾かすだけで済む。日本企業が得意とする印刷の技術を応用でき、大量生産や製造コストの大幅な削減も見込める。

曇りや雨天時、室内照明など弱い光の場合は、発電効率が急激に落ちるシリコン系に対し、ペロブスカイト太陽電池は光をよく吸収し、高い変換効率を示すのも特筆すべき点だ。

さまざまな用途が期待されており、重量の制約で設置できなかったビルの側面や、電気自動車などの車体といった曲面部分にも貼り付けることができる。

さらに結晶構造の主な原料はヨウ素や鉛で、国内で調達できる。特にヨウ素は日本が世界第2位の産出国だ。高品質のペロブスカイト太陽電池を量産できるようになれば、2000年代初頭まで優位だった太陽電池の世界市場で日本が復権できる可能性も大きいとされる。

今後の課題としては、耐久性の向上をはじめ、生物に有害な鉛の含有量を抑えることなどが挙げられている。

実用化へ
官民で実証事業

ペロブスカイト太陽電池を巡っては、実用化に向けた動きが各国で活発化している。

21年には、ポーランドのスタートアップ(新興企業)が太陽光を遮るブラインドや屋内向けの電子商品タグで利用できるペロブスカイト太陽電池を商用化。昨年7月には、中国のスタートアップが世界で初めて量産を開始している。

国内でも、早期実用化をめざす動きが進む。今年5月に東京都と積水化学工業が、都の下水処理施設で始めた実証事業もその一つだ。

大きさが異なる3種類のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を下水処理槽のふたの上に設置し、25年12月まで発電効率や耐腐食性能などを検証している。

積水化学工業は25年度からの事業化をめざしており、都環境局の担当者は「従来設置できなかった場所への導入が可能で、有効な再生可能エネルギー(再エネ)の電源として大きな期待を持っている」と話す。

設置場所
格段に増加も

国内の電源構成と政府目標

日本の年間発電量のうち、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが占める割合は21年度に20%を超え、このうち太陽光は全体の8.3%だった。

政府は、30年度に温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する目標を掲げており、その達成に向けて、30年度の発電量に占める再エネの比率を36~38%に、太陽光は約2倍の14~16%に伸ばすとしている。

一方、さらなる太陽光発電の普及に向けては、国土の7割近くが山地の日本では、発電に適した土地の不足が課題とされている。

経済産業省によると、平地面積当たりの太陽光発電設備の容量は、主要国の中で日本が最も多く、1平方キロメートル当たり514キロワットだ。2位のドイツ(同243キロワット)の倍以上と、他国に比べ適地の活用が進んでいることを示している。

日本にとって、設置場所を格段に増やせる可能性のあるペロブスカイト太陽電池が、30年度の目標達成へ重要なカギを握っている。

発電の仕組み

発電の仕組み(断面図)

ペロブスカイト太陽電池の主な構造は、光を吸収するペロブスカイト層を「正孔輸送層」と「電子輸送層」の2種類の半導体層で挟んでできている。

光が当たると、ペロブスカイト層でプラスの電荷を持つ「正孔」とマイナスの電荷を持つ「電子」が生まれ、正孔は正孔輸送層に、電子は電子輸送層へ移動する。この現象を利用して外部回路に電気を取り出すのが発電の仕組みだ。

これは日本で発明された技術で、09年に初めて桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らの研究グループが信頼性の高い査読付き論文を発表した。

当時の変換効率は約3.8%で、あまり注目されなかったが、12年に英オックスフォード大学との共同研究で10%台の変換効率を達成すると、世界で研究開発が活発化した。直近7年間で変換効率は約2倍に向上している。

公明、技術開発を後押し

政府に提言を申し入れる党総合エネルギー対策本部と党経済産業部会=今年3月

公明党は、脱炭素社会の実現をめざし、再生可能エネルギーの主力電源化を一貫して進めてきた。

特に次世代太陽電池については、21年5月と今年3月に政府に申し入れた提言で、実用化に向けた技術開発の促進や量産体制の構築などを強く要望。国会質問でも重ねて訴えてきた。

その結果、政府は今年4月に策定した再エネ導入拡大に向けたアクションプランで、ペロブスカイト太陽電池について“30年を待たずに早期の社会実装をめざす”と明示した。

今月12日には、福島再生へ党が提唱・推進してきた新産業創出の国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」に沿う形で、福島県内の公共施設などでの先行導入を検討する方針を明らかにした。

太陽電池

地球上に降り注ぐ太陽の光エネルギーを直接電気に変換する装置。使用される素材によって「シリコン系」「化合物系」「有機系」に大別される。蓄電機能はない。

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