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下水資源を地域で循環
山形・鶴岡市の取り組みから
ロシアによるウクライナ侵略や円安の影響で化学肥料の価格が高騰する中、下水汚泥を堆肥化する取り組みが注目されている。山形県鶴岡市では1986年から脱水汚泥を「つるおかコンポスト」と名付けて販売し、市民にも活用されてきた。さらに近年は市、山形大学、農協、漁協、民間企業が協定を結び、肥料に加え、食料やエネルギーを生み出す「鶴岡市BISTRO(ビストロ)下水道」の共同事業を展開している。下水道資源を地域で循環させる同市の取り組みを追った。
汚泥を肥料やエネルギーに
鶴岡市は山形県庄内平野に位置し、日本海に面する国内有数の穀倉地帯である。人口は11万9355人(今年6月末現在)。2014年には日本初の「ユネスコ食文化創造都市」に選ばれ、市民の食への関心は極めて高い。市内には8カ所の公共下水道の処理施設があり、その一つ「鶴岡浄化センター」が「ビストロ下水道」の中心施設である。処理能力は1日3万8800立方メートル。
■消化ガス
下水汚泥処理の過程では消化ガスが発生し、焼却処分されてきた。同浄化センターでは15年から民設民営方式による消化ガス発電事業を開始。これは市が消化ガスを「水ingエンジニアリング株式会社」に売却。同社は消化ガスを燃料とする発電所「鶴岡バイオガスパワー」で起こした電気を固定価格買取制度(FIT)を活用し電気事業者に売電している。21年度は一般家庭470世帯分の電力に相当する189万キロワット時を売電した。
■産学官連携で研究、事業化進める
発電を行えば、余剰熱が発生する。同社と市、山形大学は協業し、熱の有効利用を模索。17年度からは農業用ビニールハウスを整備し、加温栽培を開始した。栽培から収穫まではJA鶴岡に委託し、冬期間でも20度の室温を保つことができ、12月から3月はホウレンソウ、2月から6月はキュウリ、7月はミニトマトを栽培。ホウレンソウは市内の小中学校の給食にも提供されたことがある。
■処理水
下水道の処理水には植物の栄養となる窒素やリンが豊富に含まれる。「処理水が肥料の代わりになるのでは」との山形大学農学部の渡部徹教授の発想から、市、JA鶴岡との共同で処理水をかんがいすることによる飼料用米の栽培を14年から続けている。
飼料用米は窒素の吸収が増えるとタンパク質の含有量が高まり、家畜の成長を促す。実験水田では肥料を施すことなく収穫ができ、これを飼料としたブタは食用部分が増え、肉質が高くなった。
同市で進む下水道資源活用について鶴岡浄化センターの板垣誠所長は「産学官の連携でスマート・テロワール(循環型農村経済圏)が確立できれば」と期待している。市議会公明党は富樫正毅議員が09年3月定例会で産学官連携の強化を訴えるなど推進してきた。
【ビストロ下水道とは】
下水道資源(再生水、汚泥肥料、熱・二酸化炭素など)を農作物の栽培に有効利用し、農業の生産性向上へつなげるため国土交通省が13年8月から進めているプロジェクト。
アユの養殖にも成功
アユの養殖池を視察する鶴岡市議会公明党の(左から)富樫、秋葉雄、黒井浩之の各議員=山形・鶴岡市
処理水の豊富な栄養分に着目し19年6月から山形大学、JA鶴岡、山形県漁業協同組合、民間企業などが協働し、処理水で繁殖させた藻でアユを育てる実験が続けられている。
具体的には藻類培養池に処理水を供給し、資材に藻を付着・増殖。一方、アユの養殖池には井戸水を使用し、稚魚を放流。魚粉や穀物が配合された人工飼料に培養した藻を加えて給餌している。
アユは川底の石に付いたコケを食べて育つ。このためキュウリやスイカのような香りを伴い「香魚」との別名を持つ。一方、人工飼料で育てられた養殖アユは香りで劣るとされる。浄化センターで養殖されたアユの試験的な調理を任された地元で著名な料理人は「天然アユと同じスイカの香りがする。とても品質が良い」と太鼓判を押す。
山形大学による食品衛生試験でも安全性が確認され、今夏から「つるおかBISTRO鮎」とのブランドで市販される。