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地域公共交通どう再構築するか
人口減少やマイカーの普及、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などによる乗客減で、地方を中心に鉄道やバスなど地域公共交通の経営環境が悪化している。住民の“移動の足”をどう維持・確保していくか。課題解決に挑む各地の事例とともに、公明党の取り組みを党国土交通部会長の伊藤渉衆院議員に聞いた。
■大半が赤字。事業者と自治体の協働へ法改正
国土交通省によると、中小私鉄および第三セクターを合わせた地域鉄道事業者95社のうち、赤字事業者の割合は、2019年度の77.9%から21年度には95.8%へ増加。路線バスでは、74.4%から94.0%となった。23年版「交通政策白書」は「サービス水準の低下で、さらに利用者が減少する『負のスパイラル』を避けることが困難な状況になっている」と指摘する。
このため政府は、先の国会で地域公共交通活性化再生法など関連法を改正し、事業者か自治体の要請を受けた国が再編に向けた協議会を設ける制度を創設。事業者と自治体任せにならないよう、両者の「連携と協働の促進」を国の努力義務と定めた。
関連予算も、22年度補正予算と23年度当初予算を合わせて1300億円を確保し、自治体の取り組みなどを強化する体制を整えた。
■鉄路維持へ「上下分離」
福島県
対策の一つに、運行や営業を鉄道事業者がそのまま担い、施設の保有や管理を自治体などが行う「上下分離方式」【イメージ図参照】がある。事業者の負担軽減が狙いで、福島県はその試みを成功させた自治体の一つだ。
11年の豪雨災害で不通となったJR只見線の会津川口・只見間(27.6キロ)に同方式を導入。昨年10月、会津若松と新潟県の小出を結ぶ135.2キロの全線運転再開にこぎ着けた。
当初、鉄道事業者のJR東日本は、復旧コストや採算性の問題から、代行バスの運行を主張。一方、地元自治体が復旧費用の一部負担とともに、維持費に関し同方式を提案していた。
鉄道政策を担当する斉藤鉄夫国交相(公明党)は、只見線について「上下分離方式での復旧は全国の模範になる」と述べている。
同県只見線管理事務所の伴野史典所長は「地域の皆さんと一緒になって公共交通の将来像を描き、地方創生への起爆剤として全線再開を訴えた」と交渉当時を振り返る。
その上で、同方式の成功は「地元関係者と鉄道事業者間でさまざまなデータを共有し、どのような公共交通が良いのかを率直に議論して、信頼関係を築けたことが大きい」と語っている。
■バスの“小型化”が乗客増に
広島・熊野町
乗客減で民間の路線バスが廃止になる中、官民連携でバスの“小型化”を進めて効果を上げているのが広島県熊野町だ。
昨年10月、県内大手のバス事業者が同町を通る「阿戸線」から撤退。町は近隣の広島市や民間企業と協力し、早朝と夕方についてはこれまでのバス車両を運行させる一方、日中便については8人乗りワゴン車を導入した【図参照】。
車両の小型化により、これまで困難だった地元スーパーマーケットへの乗り入れルートが実現。病院近くの停留所も同ルートに加え、利便性を高めた。平日は4便、休日は5便の体制で、高齢者らの買い物や通院など日常生活を支えている。
待合所は、スーパーの協力を得て店内の空きスペースを活用。このスペースでは、アクセサリーなど小物の販売や、マイナンバーカードの申請受け付けなどのイベントも開催し、“にぎわい”の創出に努めている。これらの取り組みで乗客は増加した。
同町生活環境課の荻野孝雄主査は「(バス撤退の)ピンチをチャンスに変えたいと考えた。住民が快適に移動できるよう、今後も官民連携でアイデアを出し、施策に生かしたい」と力を込める。
■住民・利用者目線で利便性向上へ
党国交部会長 伊藤渉衆院議員
これまで公明党は、鉄道やバスなど公共交通ネットワークの維持に向け、支援策を推進。利用者のサポート体制強化も進めました。
とりわけ、障がい者や高齢者ら「移動弱者」の支援では、国と地方の議員が連携し、利用料の補助など各種施策を実現。近年の原油価格の高騰などを受け、公共交通機関に対する経営支援も拡充しています。
誰もが便利で快適に移動できる社会の実現へ、都市部や過疎地、観光地など地域ごとに異なるニーズや課題をきめ細かく把握し、交通機関相互の連携を深めることも重要です。
本年を「地域公共交通再構築元年」と位置付け、住民・利用者目線で公共交通の利便性をさらに向上させ、地域活性化につながるよう全力を尽くします。