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識者に聞く G7広島サミットの成果 被爆の実相 発信に意義
「不使用」堅持、核廃絶の基礎に
一橋大学国際・公共政策大学院長 秋山信将氏
――今回の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、核兵器への対応が大きなテーマだった。どう評価するか。
秋山信将氏 評価するには、G7首脳が取りまとめた成果文書「核軍縮に関する広島ビジョン」だけでなく、各国首脳が被爆地・広島を訪問したことそのものの意義も考慮すべきだ。
各国首脳が平和記念資料館(原爆資料館)を訪れ、出てきた際の振る舞いや慰霊碑に花を手向ける時の態度を見ると、少なからず心を動かされるものがあったと思う。核使用による非人道的結果への問題提起と、核保有国が非保有国を攻撃してはならないというメッセージを国際社会に発信できたのではないか。今回のG7サミットの開催地を広島にした意義は大きい。
――広島ビジョンについては。
秋山 ポイントは、G7の成果文書として初めて「核不拡散」ではなく「核軍縮」を前面に出したことにある。この中で核不使用の規範を堅持すべきだとの考えを明確にしたことは大切だ。核を侵略行為などに使わせないようにして、核の役割を限定していくと同時に、核使用の敷居を下げず、核不使用の実績を積み重ねていくことは核廃絶への重要な基礎になる。
また、広島ビジョンで核戦力に関する透明性を強調したことも大事な観点だ。互いの国の意図や能力を知り、相手の行動を予見できれば、紛争を未然に防ぎ、破滅的なエスカレーション(過激化)を回避することが可能になる。中国やロシアを含めて核戦力の透明性を高めることも核廃絶に欠かせない基盤だ。
さらに、ウクライナ侵略をやめないロシアの核使用への懸念が高まる中でも、「核なき世界」こそ人類がめざすべき方向性であると宣言した意義も大きい。
NPTの維持・強化で信頼醸成が重要
――NPT(核兵器不拡散条約)体制については。
秋山 体制の維持・強化が欠かせない。広島ビジョンでは、NPT再検討会議で、核保有国と非核保有国、市民社会の対話を提案した。核保有国を含む多くの国が参加するNPTの場で情報を共有し、意見交換を重ねていくことが信頼醸成になり、次のステップへの議論につながっていく。
――日本の役割は。
秋山 岸田文雄首相は、国民の安全を守る「今の責任」と、核なき世界をめざす「将来の責任」は両立可能と述べた。核抑止と核軍縮は日本のジレンマというが、これは世界のジレンマでもある。
岸田首相はまた、「日本はNPTの守護者」と言っている。日本はNPTを通じ、核保有国との間の積極的な対話を通じて核の役割や脅威の削減を模索し、核なき世界への基礎を固める地道な取り組みを着実に進めていくべきだ。