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力を増す「グローバルサウス」(新興国・途上国)
大庭三枝・神奈川大学教授に聞く
近年、国際社会の中で存在感を増す「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国。今回、広島で行われた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも、これらの国々との協力のあり方が討議された。国際秩序のカギを握るとされるグローバルサウスとは何か。神奈川大学の大庭三枝教授に聞いた。
■G7広島サミットで協力のあり方を討議
――G7広島サミットで主要議題となったグローバルサウス。この言葉の定義は。
途上国と新興国の総称であり、意味するところは「先進国以外」だ。アジアやアフリカ、中南米および太平洋島しょ領域諸国など、およそ140の国々が含まれる。サウス(南)という言葉とは裏腹に、地理的には必ずしも南半球の国々だけを指すわけではない。
国によって発展の度合いや政治体制、他国との関係性などが異なり、複雑な立ち位置にある国も少なくない。一口にグローバルサウスと言っても一枚岩ではない。
■インド、「代表する」立場を強調
――最近、使われるようになった概念なのか。
グローバル化が進展する中でしわ寄せを受け、「搾取」の対象になっているような貧しい国々、および、ある一国内で没落する中間層などを指す言葉として、一部の研究者が、この用語を使っていた。
他方、グローバル化の波に乗って一部の途上国が発展し、新興国として台頭したこと、またその台頭が2008年―09年の世界経済危機によって先進国経済が打撃を受ける中で可視化されたことを受け、別の用法も登場した。
すなわち、一部の新興国・途上国が発展し、従来の先進国を中心とした国際社会のあり方に異議を申し立てる、より大きな影響力を持つようになった状況を指して、「グローバルサウスの台頭」などと言われるようになった。また、特にインドは、「グローバルサウスを代表する」という立場を押し出し、国際社会における影響力を高めようとしている。
――ロシアのウクライナ侵略を巡って「欧米」と「中ロ」の分断があらわになる中、グローバルサウスの国々が中立的な立場を取っていることに関心が高まっているが。
グローバルサウスの国々の多くが、先進諸国が行っているロシアへの経済制裁に加わらない点や、同国と完全な対決姿勢を取らないという点だけを見れば、確かに“中立”と映るかもしれない。しかし、グローバルサウスの国々は、ロシアのウクライナ侵攻を決して支持などしてはいない。中国も、ロシアの侵略行為そのものへの支持を表明しているわけではない。
なぜなら、グローバルサウスの多くが、かつて植民地化や帝国主義にさらされ、その後に独立を勝ち取った国々だからだ。大国からの侵略による苦難がどれほど大きいか、そして主権の重要性を身をもって知っている。
■欧米や中ロなどと関係維持
――グローバルサウスの外交戦略について。
とはいえ、彼らはそれぞれの国益や実利で動く。ロシアとの関係の近さは国によって違うが、世界が二つに割れているように見えるのであればあるほど、どちらか一方に完全に偏るような選択はしない。自国の利益を最優先に、リスクヘッジ(危機の回避)の観点からも、先進国との関係のみならず、ロシアや中国との関係をも維持しようとしている。また歴史的経験からくる根深い欧米不信も見逃せない要素である。
グローバルサウスの中には、軍備や兵器の調達でロシアに頼っている国々や、冷戦時代からの深い関係を持つ国々もある。これだけグローバル化が進み、経済的にも各国が複雑に依存し合う今の世界の中で、一国との関係性を完全に断ち切るのは得策ではないと考えているのではないか。
■“先進国で主導権”は困難に
――先進国はグローバルサウスにどう向き合うべきか。
先進国とされるG7の国々は、かつては世界のGDP(国内総生産)の7割を占めていたが、今では4割に減少するなど、影響力の低下が否めない。他方、グローバルサウスの影響力や発言力が大きくなっている。
ただ、グローバルサウスの中でもパワーを拡大し、グローバルな国際社会の運営のあり方に直接、影響力を及ぼそうという国もあれば、まだまだ開発支援が必要な貧しい国も含まれている。
世界の長期的趨勢として、先進国のみが主導権を握り、グローバルサウスを無視して世界の秩序を維持することは困難になるだろう。よって、彼らを先進国の側に“取り込む”という姿勢は成果を生まないだろう。食料や環境など、共通の課題に共に取り組むことと共に、両者が互いの主張をすり合わせ、共に国際秩序のあり方を模索する枠組みが重要になってくる。
■連携へ日本が調整力発揮を
――日本の役割は。
日本の外交には、先進国の意向を押しつけるのではなく、新興国・途上国の立場にも配慮した調整力や交渉力が求められる。
今回、G7広島サミットの議長国として、インドやブラジルといったグローバルサウスの代表的な国々を招待し、意見を交わす場を設けたことは評価して良いと思う。今後はG7に加えて、新興・途上国を含めた20カ国・地域(G20)首脳会議なども活用し、調整力を発揮してほしい。
――日本がグローバルサウスとの連携を強化するには。
グローバルサウスの国々を、単に「支援が必要な開発途上国」という従来の見識の枠に落とし込もうとするのはよくない。日本が地道に続けてきた途上国への開発支援を維持することは重要だが、一方で、日本以上の力を持ちつつある新興国もある。既存の開発援助の枠にとどまらない、新たな付き合い方を模索するべきだ。