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不妊治療の保険適用から1年
「負担減った」喜びの声多く
高額な体外受精もカバー
不妊治療の保険適用が昨年4月に開始されて1年余り、「経済的負担が減って助かる」といった声が多く寄せられています。一方、支援団体が行ったアンケートからは課題も見えてきました。東京大学大学院の大須賀穣教授へのインタビューとともに紹介します。
2020年に不妊治療によって生まれた子どもは6万381人に上ります。この年の出生数全体の約14人に1人に当たります。
経済的負担を減らし、妊娠・出産を諦めることがないよう、政府は昨年4月、不妊治療の保険適用を拡大し、これまでの原因検査などに加え、1回数十万円かかる「体外受精」や「顕微授精」などが保険で新たにカバーされることになりました。
患者の自己負担は原則3割に抑えられ、1カ月の自己負担額に上限を定める高額療養費制度も使えます。
日本では、保険が適用される診療(保険診療)と、適用されない自由診療を併用する「混合診療」が原則禁止されており、併用すると全額自費となります。ただし、国が認めた「先進医療」を保険診療と併用する場合に限り、保険適用が維持され、先進医療のみ全額自費となります。
不妊に悩む当事者を支援するNPO法人Fineが行ったアンケートには、保険適用を喜ぶ声が寄せられています。
一方で、同法人の松本亜樹子理事は「保険適用の恩恵を受けられない患者だけでも、国の助成金を復活してもらいたい」と話しています。自由診療にも使えた国の助成金(1回最大30万円)が昨年4月になくなり、患者の中には経済的負担が増えたケースがあり、改善を望んでいます。
公明、国と地方で支援拡充
不妊治療の支援拡充について公明党は、約25年にわたって推進してきました。
1998年に策定した党の基本政策大綱には「保険適用の実現」と明記し、2000年には女性委員会が保険適用を求める約55万人分の署名を政府に提出。坂口力厚生労働相(当時、公明党)のリーダーシップもあって国は治療費に対する助成事業を04年度から開始しました。自治体レベルでも各地で独自の上乗せ助成などを進めてきました。
今回の保険適用拡大に当たっては、20年9月に菅義偉首相(当時)が実施をめざす方針を表明し、「公明党から強い要請を受けている」と述べていました。
東京大学大学院 大須賀穣教授
若年夫婦に門戸開く
不妊治療の保険適用を導入したことで日本は、生殖医療の分野においても、福祉の先進国の仲間入りができたといえます。生活習慣病と同様に“一般の病気”として社会に広く認知される機会にもつながっています。
妊娠率を上げるには、何よりも早く治療に取り組むことが重要です。これまで経済的な事情で治療に踏み出せなかった若い夫婦も少なくありませんでした。不妊治療の敷居を下げ、門戸を開いたことは大いに評価できます。
既に治療を受けている患者の中には、医療費が増えてしまうケースもあります。年齢が高くなると、少しでも高い有効性を期待して、保険適用外の治療にも頼らざるを得ない側面があるからです。
診療の幅広げる改善さらに
現在の保険適用の範囲では、患者のニーズ(需要)に十分に応えていくことはできません。今後、診療の幅をさらに広げていくことが重要です。
不妊治療は、がんなどの治療と比べて副作用などのデメリット(不利益)がほとんどありません。新しい技術が生まれる都度、患者に試して効果を検証し、保険適用の範囲を広げていくことが可能です。
また、複数の治療法を組み合わせることができるよう、将来的な保険適用を見据え、自由診療の一部を先進医療として積極的に認めていく方法も考えられます。
■4人に1人が全額自費の「混合診療」 支援団体のアンケート結果から
Fineが昨年7~10月、不妊に悩む男女約2000人を対象にアンケート調査を実施。不妊治療の保険適用拡大について良い面・悪い面を複数回答してもらいました。
保険適用になって「良くなった」と感じる人に、その理由を聞くと、「経済的に治療が始めやすくなった」「支払う医療費が少なくなった」「心理的に治療が始めやすくなった」といった回答が上位を占めました。
一方、「悪くなった」と感じる人の理由には、「(治療希望者の増加に伴って)医療機関が混雑して、待ち時間が増えた」「保険適用の範囲が分かりづらい」「経済的負担が大きくなった」などがありました。
医療費の負担については、保険診療でも、保険診療と先進医療との併用でもなく、全額自費となる混合診療の人の割合が25%と、回答者の4人に1人に上りました。