ニュース
コラム「北斗七星」
映画『二百三高地』を劇場で見たのは43年前だった。日露戦争の旅順要塞攻囲戦で二百三高地を巡る日露両軍の激しい攻防戦を描いた作品だ。極寒の中、最前線で絶望的な戦いを強いられた日本兵の惨状を描写したシーンに、思わず衝撃を受けた◆日露戦争から1世紀余り。ロシアのウクライナ侵略による市民の惨状は、いまだ続いている。空襲警報におびえながらの厳しい生活にも終わりが見えない◆以前、ロシア軍の攻撃で最愛の一人息子を25歳の若さで失った母親が、顔を覆って慟哭する姿を目にして胸がつぶれそうになった。その光景が脳裏から離れない◆彼女の涙によって呼び覚まされた記憶がある。小学4年生の時だった。出入りが禁止されていた場所へ遊びに行く計画が担任にばれ、母が学校に呼び出された。家で叱られると思いきや、何も言わず息子を見つめ頰をぬらした。「母を泣かせるようなマネは二度としない」。そう誓った◆戦争が悲惨で残酷なものだと頭では分かっている。だが、戦争や犯罪といった人の道を踏み外す生き方に、間違いなく歯止めをかけてくれたのは、わが子を思う母の涙ではなかったか。心に“とりで”を築いてくれた高恩に生涯報いたい。(佳)