ニュース
中小企業の賃上げを支援
日本経済にとって大きな課題は、物価上昇を上回る賃上げの実現です。政府は、コロナ禍や原材料高などの影響を受ける中小企業が賃上げに踏み出せるよう、補助金や税制措置による生産性向上や価格転嫁の促進などの支援策を講じています。ここでは、主な支援策の内容とともに、賃上げ施策に関する川口大司・東京大学大学院教授の見解を紹介します。
生産性の向上 強力に
設備投資など各種補助金の積極活用を
支援策の柱の一つは、各種補助金の拡充です。
例えば、賃上げと設備投資を行う中小企業を支援する「業務改善助成金」。これを活用してフォークリフトを購入し、収益を増やして賃上げを実現した農園もあります。
同助成金は、事業場内で最も低い水準の賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資など生産性向上への取り組みを行う中小企業に費用の一部を助成するものです。2022年度第2次補正予算では、対象事業者や助成上限額を拡大。昨年12月から申請受け付けを開始したところ、同月中に前年同月比2倍を上回る608件の申請がありました。申請期限は今年3月31日までです。
また、革新的な製品・サービスの開発を支援する「ものづくり補助金」では、従業員数に応じて最大4000万円の補助を受けられますが、一定の賃上げを行えば補助額は最大1000万円上乗せされます。
企業の業態転換や成長分野への事業規模の拡大を促す「事業再構築補助金」については、最大1億円が補助されます。
事業再構築や生産性向上に向けた支援として、ITツールの導入を支える「IT導入補助金」も活用できます。今年10月から始まるインボイス(適格請求書)制度への対応を見据え、会計ソフトや受発注システムなどの導入への補助だけでなく、パソコンやタブレットの購入にも上限10万円(補助率2分の1)が補助されます。
このほか各種補助事業については、中小企業庁のホームページなどで確認することができます。
税額控除、価格転嫁も推進
賃上げに積極的な企業には法人税から一定割合を控除する「賃上げ促進税制」が昨年4月から適用されています。
中小企業が雇用者全体の給与総額や教育訓練費を増やした場合、控除率を最大40%まで引き上げるもので、雇用者全体の給与総額を前年度比で1.5%以上増加させた場合は15%、2.5%以上増加させた場合は30%を控除。教育訓練費を前年度比で10%以上増加させた場合は、追加で10%控除します。
コスト上昇を商品やサービスの価格に転嫁しやすくする環境整備にも注力します。
元請け企業が著しく低い価格で納入を求めていないかを調べる中小企業取引対策事業の予算を増額するとともに、大企業との適正な取引へ調査を行う「下請Gメン(取引調査員)」を今年1月から300人体制に増員。下請け企業から実情を正確に吸い上げ、価格転嫁しやすい環境づくりを進めます。
収益改善の利潤が賃金に結び付くよう検証が必要
東京大学大学院 川口大司 教授
ものづくり補助金やIT導入補助金は、中小企業の生産性を向上させる重要な施策です。特に中小企業のデジタル化に向けた支援は、作業の効率を高めるだけでなく、蓄積されたデジタル情報を基に業務の改善につなげるメリットもあります。
賃上げなどを目的として取得した機械や装置の固定資産税を軽減する特例措置などの税制支援も生産性向上につながります。
また、中小企業での賃上げ実現には、価格転嫁も重要です。原材料費の上昇分を適切に価格に転嫁できなければ収益が圧迫され、賃上げの環境は整いません。その点、公正取引委員会を中心に、取引先大手が優越するような取引条件を防ぐことは大切です。
地方経済をみると、経営人材のマッチングやデジタル化などの支え手が必要です。金融機関や商工会議所などによる伴走型の支援も欠かせません。中小企業の合併・買収(M&A)促進などにより経営自体を効率化していくことも大事です。
もっとも、いずれの施策も中小企業の収益環境を改善しようとするものですが、それが直ちに賃金上昇に結び付くとは限りません。収益環境の改善で得た利潤を企業の経営者が手にすることも考えられます。生産性の向上が賃金上昇に結び付くためには労働市場の流動性向上が必要で、今後は補助金や税制優遇が賃上げにつながっているかを検証すべきです。
公明党は弱者を守る現実的な政策を打ち出し、連立政権下で影響力を発揮してきたバランスの取れた政党だと思います。今後も現場の声に適応した政策に期待しています。