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認知症事故 保険で救済
賠償最大2億円と見舞金
神戸市が新方式 65歳以上に簡易検診
認知症高齢者が増える中、認知症の人が徘徊中に事故を起こした際、本人や家族が多額の損害賠償を請求されるケースも起きている。そうした事態に備え、神戸市では4月から、市が賠償金を支払うことなどを柱とした事故救済制度をスタートさせた。「神戸モデル」と呼ばれる取り組みを紹介する。
認知症の人が起こした事故の賠償に関心が集まったのは、2007年に愛知県大府市で認知症の高齢男性が列車にはねられ死亡した事故。以来、各地で救済制度の導入が始まっている。
この事故でJR東海は、振り替え輸送費など約720万円の損害賠償を遺族に求めたが、最高裁は16年、このケースでは遺族に賠償責任はないとした一方で、事情によっては家族も責任を負う可能性があると指摘した。
「認知症はもはや個人の問題ではない。今を生きる全ての人が関係者だ。だからこそ皆で支えていきたい」。神戸市の宮川知幸・認知症対策担当課長は、こう強調する。
財源は市民1人年400円
「神戸モデル」のポイントは、65歳以上の高齢者が自己負担なしで認知症診断を受けられる診断助成制度を導入した点にある。もう一つは事故救済制度で、事故を起こして賠償を求められた場合も、委託する民間保険会社から最大2億円が賠償金として請求者に支払われる。加えて、認知症の人の賠償責任の有無にかかわらず、市が被害者に見舞金を最大3000万円支給する。市民税を1人当たり年400円上乗せすることで、その財源とした。事故の発生場所は、市の内外を問わない。
事故救済制度を賠償金と見舞金の「2階建て方式」にしたのは、「認知症の人が火災や傷害などの事故を起こした際、賠償責任の有無の判断が難しいケースでも、被害者の救済を優先するためだ」(宮川課長)。また、市は認知症と診断された市民を登録し、市が民間の保険に加入する。行方を把握するためのGPS(衛星利用測位システム)の端末導入費なども市が負担する。
救済制度の導入を検討していた神戸市は、有識者会議からの提言を踏まえ、昨年12月、市民税の上乗せを盛り込んだ「認知症の人にやさしいまちづくり条例」改正案を可決。4月の制度実施を前に、1月末からは65歳以上の高齢者に対する窓口負担が無料の認知症診断を開始した。市介護保険課の担当者は「すでに受付件数は7000件を超えており、市民の関心の高さを改めて認識した」と話す。
また4月からは、認知症に関する総合電話相談窓口「こうべオレンジダイヤル」も新設され、神戸モデルの申し込み方法などに関する問い合わせが相次いでいるという。
導入へ自治体の動き活発
市内に私鉄3社の8駅、32カ所の踏切がある神奈川県大和市は、17年11月に全国で初めて、高齢者を被保険者として公費で保険料を全額負担する制度を始めた。支払われる賠償金は最大3億円。
対象は、徘徊の恐れがある認知症高齢者の保護のために市や関係機関でつくる「はいかい高齢者等SOSネットワーク」の登録者で、現在約330人。市高齢福祉課の担当者は「保険に加入できるメリットを感じて登録する人が増えている」と強調しており、利用者からも「安心して外出できるようになった」などの声が寄せられているという。
また列車事故があった愛知県大府市や、栃木県小山市も18年6月に同様の制度を導入。19年度からも岐阜県高山市や同本巣市、長野県下條村など複数の自治体でスタートしており、現在までに全国で10を超す自治体が取り組んでいる。
民間企業も、新商品開発
民間でも、新たに認知症保険に参入する動きが増えている。
東京海上日動火災保険は昨年10月、高齢者が徘徊し行方不明になった際の捜索費用などに備える新商品を発売。業界で初めて、認知症と診断された人でも加入できる点が注目されている。同社の担当者は「認知症の人と家族の会にアンケートの協力をしてもらい、そこに寄せられた声をもとに開発した」と話す。
また、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命も昨年10月に、認知症の前段階に当たるMCI(軽度認知障害)と診断された時点で、保険金の一部を払う商品を発売した。
一方、太陽生命保険と朝日生命保険では、16年に他社に先駆けて、認知症と診断されると給付金を支払う保険を発売するなど、今後の超高齢社会の到来を見据え、関心が高まっている。










