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自殺防止へ若者に身近なSNS相談
半年で約1万件 10、20代の利用が9割
厚労省、支援事業に手応え
若者の自殺防止を目的とした、SNS(会員制交流サイト)による悩み相談が効果を上げている。厚生労働省は3月、SNS相談を活用して自殺防止に取り組む民間団体の支援事業の分析結果をまとめるとともに、相談事業のためのガイドラインを策定した。
ライフリンクと協働でSNS相談を行う社会的包摂サポートセンターの相談員(都内)
「SNSは若者の身近な相談窓口として、とてもニーズが高い」――。こう話すのは、厚労省の事業を担うNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の清水康之代表だ。
警察庁によると、2018年の全国の自殺者は2万840人(確定値)。9年連続で減少する一方で、19歳以下の自殺が増加しており、いまだに歯止めがかからない状況にある。そこで近年注目されているのがSNSの活用だ。
厚労省が支援する「社会的包摂サポートセンター」など民間6団体が行ったSNS相談事業の分析結果によると、昨年4~9月に寄せられた相談件数は、延べ9548件。このうち9割が10、20代の若者で、性別が分かる相談者の95%が女性だった。清水代表は「電話では拾い上げることのできなかった年齢層からの相談に対応できている」と指摘する。
相談の内訳をみると、うつ病などの「メンタル不調」が3789件と最も多く、次いで「死にたい」といった「自殺念慮」(3221件)のほか、「家族」「学校」などに関するものが続いた。9割近くが無料通信アプリLINEでの相談だったという。
これらの相談事例を踏まえ、ガイドラインでは、相談員に対し、相手のテンポに合わせ基本的に短文で応答することなどを要請。またSNS相談を入り口に、課題解決へリアルな世界での具体的な支援につなげることが重要だと強調している。
状況判断が難しく
SNS相談から、行政支援につながった例もある。
例えば、人間関係が原因でアルバイトを辞めた30代の男性は、2日に1回しか食事が取れない状態に陥り自殺願望を抱いたものの、「SNSなら気持ちが楽」と思い、SNS相談を利用した。相談員はSNS上でのやり取りの中で自殺のリスクが非常に高いと判断し、面談などを経て、行政と連携。現在、男性は生活保護を受給し、新たな一歩を踏み出している。
一方、SNS相談では相手の表情や声が分からないことから、深刻さが判断しづらいなどの課題もある。厚労省の担当者は「的確に相手の状況を判断するには、相談技術を向上させる必要がある」と語り、ガイドラインの活用を呼び掛けている。
30自治体がいじめ対策に活用
学校でもSNS相談の活用が広がっている。
これまで、いじめや不登校に関する相談は電話が中心だったが、長野県では公明党県本部の推進により、17年に全国で初めてLINEを使った相談事業を実施。わずか2週間で前年の電話相談の倍以上となる相談が寄せられた。このため文科省も18年度から補助金を出して、SNS相談を行う自治体を後押ししている。現在、北海道や東京都、大阪府など30自治体が取り組む。
これら自治体の多くは、学校を通じて児童・生徒に相談窓口につながるQRコードを印刷したカードを配布している。LINEであれば、QRコードをスマートフォンなどで読み込み、友だち登録すると相談が可能になる。
総務省の調査によると、10代の電話の利用時間は1日当たり1分弱なのに対し、SNSは54分に上る。SNSは若者にとって、欠かせないコミュニケーションの手段となっている。一方で、自殺願望を抱く若者は助けの求め方が分からず、相談窓口を知らない場合が多いという。文科省の担当者は「子どもが相談しやすい体制づくりに、より力を注いでいく」と話した。