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【主張】原発賠償基準見直し 東電は迅速、誠実に対応せよ
東京電力福島第1原発事故を巡り、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は20日、国が定めた賠償基準である「中間指針」を見直し、賠償範囲を拡大した。2013年12月以来の改訂である。
背景には今年3月、最高裁で従来の中間指針を上回る額の賠償を東電に命じる7件の判決が確定したことがある。これまでの指針と被害実態との開きがある以上、改めるのは当然だ。
原発事故から11年9カ月。故郷を追われ、避難生活を強いられた多くの住民は、その不条理と計り知れない喪失感に心を痛めてきた。東電は新たな指針を真摯に受け止め、賠償内容を具体化して迅速かつ誠実に対応すべきである。
指針の大きなポイントは、避難指示が解除された居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民を対象に、長年住み慣れた故郷が事故で「変容」してしまったことによる精神的損害を認めたことだ。新たに1人250万円を賠償する。既に帰還困難区域の住民には、生活基盤を「喪失」した精神的損害に対し、1人700万円の慰謝料が支払われている。
また指針では、事故直後に着の身着のままで過酷な避難を余儀なくされた第1原発から20キロ圏内の住民には30万円を加算。このほか、避難指示が出された地域以外の福島市など福島県内23市町村が対象の「自主的避難等対象区域」で、既に40万円が支払われている子どもと妊婦を除き、20万円を目安に慰謝料を支払う。
こうした内容について指針に「損害額はあくまで目安であり、賠償の上限ではない」と初めて明記された意義は大きい。指針で対象としていない損害でも、当事者の個別具体的な事情に応じて柔軟に対応するよう求めている点も重要だ。東電には被災住民に寄り添う姿勢が欠かせない。
政府の責任も重い。賠償が適正に支払われるよう、東電を指導すべきだ。併せて、被害者の生活再建のためにも、被災地の復興加速がいや増して不可欠であることを強調しておきたい。