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危機の時代克服へ 識者に聞く 感染症に強い国造り
情報収集、搬送、診断など
医療のデジタル化が急務
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長 中村祐輔氏
――これまでの日本の新型コロナウイルス対応の評価は。
中村祐輔理事長 当初に学校閉鎖をしたが、危機管理の観点では間違っていなかった。昨年、ワクチンの「1日100万回接種」に向けて、全市町村を動かし強力な体制を組んだことも評価されるべきだ。
ただ、悪かった点も多い。初動で病床を確保できなかったことや、今もPCR検査が十分にできていないことは問題だ。「検査」と「隔離」という感染症対策の基本を忘れてはならない。
政策決定での「非科学性」排せ
――なぜ対応がうまくいかなかったのか。
中村 全てに言えるのが、感染症対応は科学的に行うべきなのに、非科学的な側面が目立った。ワクチンに使われる「メッセンジャーRNA(mRNA)」に対する知識が乏しく、ワクチンの承認と接種開始が遅れたことなどがそうだ。最先端の情報を基に、最悪の事態も想定しながら対策が練られていなかったと言わざるを得ない。
コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から、インフルエンザ並みの「5類」に引き下げる議論があるが、分類はあくまで便宜的に設けられたものだ。分類ありきではなく、本来はウイルスの性質を見極めて、そのウイルスに沿った分類や施策を考えなければ、科学的とは言えない。
――コロナ禍を通して見えた日本の医療の課題は。
中村 デジタル化の遅れがより顕在化し、日本の医療体制の脆弱性に対して、ボディーブローのようにじわじわと効いている。
重要なことは、医療情報を迅速に収集して活用できるようにすることだ。そうすれば、感染拡大期に患者を救急搬送する際、長時間かけて病院を探すこともなくなる。スマートウオッチでの病状管理や、人工知能(AI)を搭載したアバター(分身キャラクター)による非接触での診断ができれば、医療の質を確保しながら、医療従事者や保健所の負担軽減にもつながる感染症対応が可能になる。
――11月に国産のコロナ飲み薬が初めて実用化したが。
中村 日本の医薬品の貿易収支を見ると、今年は約4兆円の輸入超過は確実だ。この状況は、世界で競争していける医療先進国とは到底言えない。患者の情報が集まらなければ国内で治験が十分にできず、新しい医薬品の開発も進みにくくなってしまう。こうした点でも、患者情報の集約といったデジタル化を急ぐ理由がある。
――これからの感染症対策の政策決定はどうあるべきか。
中村 危機に備えるためにも、日本の医療の将来像を描き、いつまでに何をするべきかを明確に決めるとともに、最先端の科学的な情報を基に必要な施策を提言できる組織をつくるべきだ。異なった意見を含めて平場で議論し、そうした現場の声を政治家が聴いて、責任を持って政策に取り入れるプロセス(過程)をしっかり構築してほしい。