ニュース
頻発する「内水氾濫」 対策の現状と今後の課題
下水道などによる排水が追い付かなかったり、河川などの水位が上昇して下水道などから排水できずに水があふれる「内水氾濫」。気候変動の影響などで局地的な大雨が増える中、内水氾濫による浸水被害が各地で頻発している。河川の水が堤防を越えたり、堤防決壊で発生する外水氾濫に比べ、これまで対策が手薄とされてきた。対策強化へ政府は、雨水をためる貯留施設の整備などハード対策を推進。また、迅速な避難に向け自治体に作成を義務付けた「内水浸水想定区域図」の進捗状況を公表し、遅れている自治体への支援を強めるなど、ソフト対策にも力を入れている。実際の取り組み事例とともに、対策の意義や課題について、内水氾濫に詳しい中央大学研究開発機構の古米弘明教授に聞いた。
近年、内水氾濫で市街地が水に漬かる被害が多発している。
2019年の東日本台風では、内水氾濫による浸水被害が15都県135市区町村で発生。被害家屋は、全国で約3万戸超に上った。今年7~9月にかけて発生した豪雨でも、内水氾濫の浸水被害は29都道府県83市町村と広い地域に及び、浸水戸数は全国で約1万戸を超えた。
■市街化で排水追い付かず浸水
内水氾濫が発生する背景には、都市化の進展があるといわれている。市街化に伴い、森林や農地、水田などが減少し、住宅や駐車場、アスファルトの道路が増えると、雨水を地下に浸透させるための土地面積が縮小。短時間に多量の雨水が下水道に流れ込み、排水できずに浸水する。
また、局地的な豪雨などで川の水位が上がり、下流での外水氾濫を防ぐために市街地の水を川へ放流できず、浸水するケースもある。
■外水氾濫より多い建物被害
国土交通省によれば、9~18年までの10年間で内水氾濫が原因で浸水した建物は約21万棟に上っている。外水氾濫より約9万棟も多く、被害は深刻だ。
対策強化に向け政府は、公明党の要請を踏まえ、必要な予算を充実。22年度予算で防災・安全交付金を約8156億円確保し、対策費に充てている。個別補助金についても下水道防災事業費補助として約524億円を計上し、内水氾濫のリスク低減へ、きめ細かな整備事業を進めている。
■雨水貯留浸透施設の整備や浸水想定区域図の作成進む
内水氾濫による浸水被害を防ぐため、雨水を排除する雨水管やポンプ場の整備が進められている。国交省によると、対策に向けた施設整備の達成状況を示す、下水道による都市浸水対策達成率は約6割(20年度)。近年は、雨水をためたり、地下に染み込ませる「雨水貯留浸透施設」の整備も各地で行われている。
このうち、雨水を一時的にためる雨水調整池を地下に建設して、浸水被害を抑えている自治体の一つが熊本県八代市だ。
12年7月の豪雨では、同市古閑中町を中心に東京ドームの広さの10倍を超える50ヘクタールが浸水被害に遭った。この地域では勾配のない平地の地形的要因から、大雨が降るたびに道路が冠水するなど、浸水被害が常態化していた。
同市では国の予算を活用し、県内初となる雨水地下調整池を整備し、21年7月から運用をスタート。この調整池の貯水容量は、7100立方メートルで、25メートルプール約16杯分に相当する。市議会公明党が事業の推進を訴えてきた。
同年8月の豪雨では、1時間当たり50ミリを超える大雨に見舞われたが、同地域では浸水被害地はゼロだった。
住民の迅速な避難を促すソフト対策も進められている。その一つが内水ハザードマップ(災害予測地図)の基になる内水浸水想定区域図の作成だ。
水に漬かるエリアや水深などを示した同区域図を作成した自治体などは、対象となっている1097団体のうち105団体(3月末時点)。名古屋市や札幌市などの大都市地域に加え、神奈川県伊勢原市などの中小都市にも広がっている。国は費用の2分の1を補助する制度を設け、25年度末までに全国約800団体での整備をめざしている。
■公明、法改正など取り組みリード
こうした取り組みを後押ししているのは、公明党のリードで21年に制定された改正水防法だ。被害の軽減に向け、下水道による浸水対策を行っている全ての自治体などに、想定される最大規模の降雨に対応する同区域図の作成を義務化した。
国交省水管理・国土保全局の西修流域下水道計画調整官は、「気候変動の影響もあり、過去に内水氾濫が発生していない地域でも、注意が必要だ。ハード対策の施設整備とともに、防災意識を高め警戒避難体制を強化するソフト対策の重要性も一層周知していきたい」と話している。
中央大学研究開発機構 古米弘明教授にインタビュー
――内水氾濫による被害が相次いでいる。
古米弘明・中央大学教授 市街化が進むと、内水氾濫が頻発しやすくなる。各地で、台風や集中豪雨によって、内水氾濫と外水氾濫が同時に起こるケースも見られる。
国や県も管理を担う河川の外水氾濫対策の充実とともに、下水道の管理主体である市町村への財政措置など内水氾濫対策の強化が求められている。
――施設整備などハード対策は進んでいるか。
古米 近年は、大量の雨水をためたり、土壌に染み込ませたりする「雨水貯留浸透施設」の建設が加速している。特に、低地における貯留施設だけでなく、丘陵・台地を中心に自然環境を活用した浸透施設の整備も進んでいる。
■リスク情報、地域で共有を
――ソフト対策も欠かせない。
古米 内水浸水想定区域図の作成が着実に進んでいることを歓迎したい。内水氾濫への警戒体制を強化するために、地域の浸水リスク情報をしっかり把握し、伝え、地域で共有することが大切だ。国や自治体は作成とともに公開・周知に総力を挙げてほしい。
――今後の課題は。
古米 中小都市の自治体は、人材や財政面で厳しい状況にある。国には一層の支援を求めたい。その際、重要なことは、国や自治体が予算をかければ、これだけの被害軽減が見込めるという費用対効果をしっかり示し、対策の工程表を打ち出していくことだ。
また、対策促進へ、河川や下水道、道路や公園などの各部局が連携を一層強めることも欠かせない。
国には、補助制度だけでなく、人材や技術の支援にも力を注いでほしい。内水浸水想定区域図や雨水管理総合計画などを指導する「都市雨水管理士」資格制度の創設も提案したい。
■デジタル化やAIの活用も
――そのほかに必要な取り組みは。
古米 浸水を予測するモデル解析には、管路やポンプ場などの施設データのデジタル化と管路内の水位観測が必須である。こうしたデータが蓄積されれば、降雨の状況に応じたモデル解析の精度を高めることができる。
さらに、AI(人工知能)を使って浸水を予測しポンプを運転制御する「リアルタイムコントロール」も整備されるだろう。効率的で効果的な対策が期待できる。
今後の対策で注目したいのは、自然が持つ多様な機能を生かしながら雨水流出を抑制する「グリーンインフラ」だ。雨水を浸透させる機能だけでなく、植栽による地表面温度の低下など微気象の改善、二酸化炭素の吸収、緑豊かな景観、さらに生物多様性を守るという観点でメリットも多い。貯留できた雨水は公園の散水にも利用できる。
――公明党は内水氾濫対策に力を注いでいる。
古米 国交相は、水循環政策担当相を兼務しており、防災・減災、国土強靱化の観点から、内水氾濫対策に熱心に取り組まれている公明党出身の大臣を高く評価している。
東京都の江戸城外濠および日本橋川の現地視察に、公明党の地方議員と同行したこともある。党を挙げた取り組みを心強く思っており、今後の活躍も期待している。
ふるまい・ひろあき
1956年、岡山県生まれ。東京大学工学部卒。同大大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。東北大学助手、九州大学助手・助教授などを経て、98年、東京大学大学院工学系研究科教授。同大名誉教授。2022年から現職。この間、米国スタンフォード大学客員研究員など。専門は、都市雨水管理、水環境保全。編著『水システム講義 持続可能な水利用に向けて』(東京大学出版会)ほか。