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外見(アピアランス)ケアでがん患者の気持ち軽く
拠点病院に専門相談窓口
厚労省が来年度にモデル事業実施へ
脱毛や爪の変色など、がん治療の副作用や傷痕が残る手術に伴う外見の変化でつらい思いをする患者は少なくない。公明党の提言も受け、厚生労働省はウィッグ(かつら)の使用や、爪の手入れ、スキンケアなどで、そうした苦痛を和らげるアピアランス(外見)ケアの全国展開をめざしている。来年度には、医療機関に同ケアの専門的な相談窓口を設置するモデル事業を行う方針だ。
「髪が抜けた時は落ち込んだ。でも、ウィッグをかぶることで気持ちが軽くなり、治療に対しても前向きになれた」。今夏、乳がんで抗がん剤治療を受けた都内在住の女性(40)は、こう振り返る。
このようにアピアランスケアは、患者の心理的な苦痛を和らげ、「その人らしく、社会生活の中で今まで通りに過ごす」ことを支える。医療の進歩により、治療をしながら日常生活を送る患者が増える中、近年、その必要性は高まっている。
ただ、厚労省の2018年度の調査によれば、全国の、がん診療連携拠点病院(約400カ所)の9割超が、同ケアに関する相談に応じる体制を整えているとはいうものの、十分に機能していない実態が分かった。各施設で対応する部署はさまざまで、相談実績がゼロないし1~5件が計4割超に上った。
そこで、厚労省は新たな試みとして、23年度予算の概算要求に「アピアランス支援モデル事業」(2600万円)を計上した。同事業では、がん診療連携拠点病院などに、研修を受けた医療従事者を置いた専門的な相談窓口を設置。患者に、治療や副作用などの情報提供を行い、必要に応じて他の医療機関と連携する。都道府県は窓口の周知や医療機関との情報共有も行う。
厚労省がん・疾病対策課は「モデル事業を通して、効果的な支援対策について検証し、全国各地で質の高いアピアランスケアの実施をめざしたい」と説明する。
国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)の藤間勝子・アピアランス支援センター長は、外見が変わっても安心して暮らせる方法を提供することが重要だと強調し、厚労省のモデル事業について「患者のニーズに寄り添った相談支援体制の充実が期待できる」と語る。
ウィッグに助成の自治体も
がん患者が爪のケアの方法などについて相談できる東京都港区のサロン=11月10日
自治体でも、ウィッグの購入助成などアピアランスケアを支える動きが広がっている。
東京都港区では、区議会公明党の推進で17年度からウィッグや乳がん患者向けの胸部補正具などの購入を助成している。
さらに、同区は、区立がん在宅緩和ケア支援センター「ういケアみなと」で、アピアランスケアについて気軽に相談できるサロンも定期的に開催。11月上旬には、ネイルケアの体験が行われ、参加者は頭皮や爪に関する相談を行っていた。参加した女性は「相談に来ることで気持ちが明るくなり、外出しやすくなった」と語る。
横浜市では、情報提供を強化するため、国立がん研究センター中央病院と協力し、髪や爪などの変化への心構えやセルフケア方法を、医療従事者の立場から解説するアピアランスケアのリーフレットを配布。市議会公明党が推進したもので、10月には、内容をリニューアルするとともに、ウィッグの選び方などを解説するリーフレットも新たに完成した。
市がん・疾病対策課は「リーフレットは、アピアランスケアに取り組む他の自治体や医療機関でも活用されている」と話している。
公明、体制整備を提案
「がんとの共生」をめざし、アピアランスケアの充実や外見の変化に悩む人への配慮に力を入れてきたのが公明党だ。
運転免許証の写真で配慮実現
18年からは、がん治療で脱毛した人が運転免許証写真を撮影する際、医療用帽子の着用が認められている。佐々木さやか参院議員が、がん患者から寄せられた声をもとに国会質問したことで実現した措置だ。
ケアの相談体制についても、党厚生労働部会(部会長=佐藤英道衆院議員)が、23年度予算の概算要求に関する厚労省への提言でモデル事業の実施などを訴えていた。
党がん対策推進本部長の山本博司参院議員は「がんになっても日常生活を変わりなく過ごせる社会を築いていく上でアピアランスケアは重要。今後も本部内で支援策の充実を議論したい」と意欲を示している。