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通園バスの置き去り防止へ
公明の提言受け、政府が緊急対策
自治体、安全マニュアル策定や研修促す
静岡県の認定こども園で9月、バスに取り残された3歳の女児が死亡した事件を受け、政府は今月12日、バスへの安全装置義務化などを盛り込んだ緊急対策をまとめた。昨年7月に福岡県でも同様の死亡事件が起きており、対策が急務だった。再発防止に向けた自治体などの取り組みとともに、政府の緊急対策のポイントを紹介する。
残っている園児はいないか、運転手もバス内を点検する=17日 都内
■現場では目視確認を徹底
午前9時半すぎ、都内の私立幼稚園を訪ねた。通園バスが正門前に到着すると、園児たちが「おはようございまーす!」と元気にあいさつしながら、次々と降りてきた。同乗していた職員と、正門で待っていた職員が園児の降車を手際よく補助する。全ての園児が降りると、職員がバスの最後部まで、残っている児童がいないか確認。その後、運転手もバス最後部まで“ダブルチェック”を行っていた。
同園では園児230人のうち7割がバスで通園する。園長は「お子さんたちの大事な命を預かっている。どこまでも人の目による確認を徹底している」と力を込める。
■指導監査を見直し
昨年7月、5歳の男児が保育所の送迎バスに取り残され死亡する事件が起きた福岡県。これを受け、県が行った調査では、バス送迎を行う保育施設の4割超で、安全管理マニュアルがなかった。
その背景について、県担当者は「バス送迎は、あくまでも施設と保護者が私的に契約した有償サービスであり、行政は関与してこなかった」と説明する。
だが、事件を機に、県は各施設に同マニュアルの策定を促そうと、独自の指針を策定。今年7月時点で、バス送迎を実施する施設でのマニュアル策定率は9割超まで上昇した。
さらに県は、行政が各施設に年1回実施する指導監査も見直した。送迎バスを巡る監査を充実させるため、今年度から「児童の車両送迎」「登降園管理」に関する項目を新設。事前通告なしの監査も導入し、きめ細かく実態をチェックできる仕組みにした。県担当者は「二度とあのような悲劇を起こさせないため、対策を重ねたい」と表情を引き締めていた。
■“ヒヤリハット”集
鳥取県では、福岡県での事故を受け、昨年8月に県内全ての保育施設などを対象とした送迎バス運行に関する実態調査をした上で、同12月にバス送迎に関する安全管理ガイドラインを策定した。
県内の教育・保育施設などで、運転手やパートも含めた全職員を対象に動画を活用した研修会を実施。ヒヤリハット(重大事故に直結する一歩手前の出来事)の事例集も今年3月に公表した。県子育て・人財局の中西朱実局長は「結局は大人の責任感だ。毎年、研修を続けて緊張感を保っていきたい」と語った。
■見落とし防ぐ装置「事業者負担なく」/佐々木氏の質問に首相
公明党は、9月5日に静岡県で起きた女児の死亡事件を受け、通園バスの安全対策強化を繰り返し政府に迫ってきた。これを受け、政府は10月12日、見落としを防ぐ安全装置の設置義務付けなどを柱とする緊急対策をまとめた。
装置の設置費用については、20日の参院予算委員会で佐々木さやか氏が「国で負担すべき」と訴え、岸田文雄首相から「事業者の負担がゼロとなるような定額補助を行う方向で調整している」との答弁を引き出した。
国土交通省では年内に、安全装置の仕様を定めたガイドラインを策定する。①バスのエンジン停止後、一定時間で警告音が鳴り、車内後部のボタンを押して音を止める過程で目視確認を促す②取り残された子どもをセンサーで感知する――などの方式を想定している。
義務化の対象には、幼稚園や保育所、認定こども園のほか、認可外保育施設や特別支援学校(幼稚部~高等部)、児童デイサービスといった障がい児通所施設なども入る。
公明党は9月9日、記者会見で石井啓一幹事長が、政府が予算措置を含めた対応を早急に検討するよう強調。28日に岸田首相に行った総合経済対策への提言や、10月7日の山口那津男代表による参院代表質問でも、通園バスの安全対策強化を求めるなど、党を挙げて“幼い命”を守る取り組みを強く促した。