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国産ワクチンの製造拠点の整備に向けた取り組みの現状と、障害者権利条約の実施状況を巡り、国連が日本に初めて改善勧告を出したことについて解説する。
国産ワクチンの製造拠点
バンセルCEO(左端)と握手を交わす山口代表(右から2人目)=9月15日
米モデルナ社のCEOが日本にワクチン製造拠点の整備を検討していると表明。今後、政府とも協議を進める
Q 新型コロナウイルスのワクチンを開発した米バイオ医薬品企業モデルナのステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)が先月、来日し、公明党の山口那津男代表とも意見を交換したことが注目された。
A 山口代表や石井啓一幹事長らが同席し、先月15日に開かれた公明党の厚生労働部会と医療制度委員会の合同会議にバンセルCEOも出席した。
「メッセンジャーRNA」という遺伝物質を活用したモデルナ社製のワクチンは、新型コロナの感染による重症化を抑制し、死亡率の大幅な減少につながった。今後、新型コロナの変異株が猛威を振るったり、新型コロナとは別の新たなウイルス感染症が流行したりする事態に備え、山口代表は「対応できるワクチンを早く開発し、提供できる体制づくりが日本で必要だ」と指摘し、「モデルナ社の協力によって日本でメッセンジャーRNAを活用したワクチンの製造拠点を造りたい」と訴えた。
これに対し、バンセルCEOは「日本にモデルナの工場を持ってくることを検討している」と表明。工場では、日本の技術や人材を活用したいとして「日本政府とさらなる協議を続けていく」と述べた。
Q 国産ワクチンの実用化を進めるための取り組みの現状はどうなっているのか。
A 文部科学省は8月26日、世界トップレベルのワクチン研究開発拠点を整備するため、▽中核の「フラッグシップ拠点」として東京大学▽連携する「シナジー拠点」として、北海道大学、千葉大学、大阪大学、長崎大学▽拠点に必要な機能を提供する「サポート機関」として、実験動物中央研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所、理化学研究所、滋賀大学、京都大学など――を選定した。
拠点への政府の支援期間は最長で10年間。まずは、2021年度補正予算から515億円を投じ、5年間支援する。
Q 課題は何か。
A 各拠点は平時からワクチンに関する基礎研究などを行い、緊急時には各拠点を一体的に運用してワクチン開発などに従事するとされている。ただ、研究開発が進んだワクチンを製品化し、提供するには、製品化を担う産業界との協力が不可欠だ。モデルナ社の協力で、ワクチンの製品化や提供も円滑に行える体制整備に向けた動きが加速することが期待される。
国連障害者権利委の初勧告
精神科への「強制入院」を可能にする法令の廃止や、障がい児が普通教育を受けられる環境整備などを求める
Q 障害者権利条約の実施状況について、国連が初めて日本に改善勧告を出したと聞いた。
A 2006年12月に国連総会で採択された同条約は、障がい者が健常者と同じように生活できる社会をめざし、締約国に具体的な措置を講じるよう求めている。日本は14年1月に同条約を批准した。その実施状況について、8月22、23の両日、スイスのジュネーブにある国連欧州本部で日本が初めて審査された。
審査を行ったのは18人の専門家で構成される国連の「障害者権利委員会」で、政府の主張だけでなく、障がい者の意見も聞いた上で判断する。そのため、日本から障がい者やその家族、支援者ら約100人が審査の日に国連欧州本部に集まった。審査を踏まえ、同委員会は先月9日、日本政府に障がい者政策の改善を促す勧告を発表した。
Q 勧告の内容は。
A 全部で75項目あり、中でも改善を「強く要請する」と強調されているのが、障害者権利条約19条の「自立した生活と地域社会への参加」の規定と、同24条の「教育に関する権利」の規定に関わる政策だ。
19条との関連では、精神科への「強制入院」を可能にしている法令の廃止や、入院の長期化の解消などを求めた。
24条との関連では、障がい児が学ぶための特別支援教育により、普通教育に障がい児が加われない状態が長く続いているとの懸念を表明。こうした分離教育の中止に向け、障がいのある子もない子も共に学ぶ「インクルーシブ(包容する)教育」に関する国の行動計画を策定するよう求めた。また、普通学校が障がい児の入学を拒めないようにする措置も要請した。
Q 勧告に強制力はあるか。
A ない。例えば、特別支援教育についての勧告に対して、文部科学省は「特別支援と普通の学校の選択は、本人と保護者の意思を最大限尊重している」と強調し、勧告後も特別支援教育を中止しないが、インクルーシブ教育は推進するとの方針を示している。ただ、審査では、障がい者から「特別支援学校から普通学校への編入を断られた」「教員不足や周囲の無理解などで特別支援教育を選ばざるを得ない」などの声も聞かれた。政府は勧告を重く受け止め、障がい者政策の改善に努めていくことが重要だ。