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コラム「北斗七星」
紀伊半島南部の和歌山県串本町には、観光名所の「橋杭岩」がある。高さ10メートルを超える柱のような巨岩が、海岸から沖合に一直線に立ち並ぶ絶景。高校の修学旅行で訪れた記憶があるが、そこで驚くべき痕跡が確認された◆橋杭岩の西側には15メートル以上も離れた所に、約1100個の大きな石が散らばっている。これらの石は、岩から崩れ落ちた後、津波で運ばれたとみられ、最も重いものは85トン。産業技術総合研究所などのチームが、どのくらいの規模の津波で運ばれたのかをシミュレーションで分析した◆その結果、南海トラフ地震で最大級の「宝永地震」(1707年)の津波では動かないものもあった。つまりこれは、宝永地震を超える巨大津波が過去に押し寄せていた可能性を示唆しているという◆文字で残された地震の記録は少なく、さまざまな手法で推定していくしかない。岡村真・高知大学名誉教授は、「巨大な岩を利用するのは過去の津波を調べる新たな手法で、他の地域にも応用できるだろう」(13日付高知新聞)と◆周期性を持つ南海トラフ地震は幾度となく襲来し、近い将来の発生が予想される。新たな手法とデータ分析の知見が、次の備えに生かされることを願う。(祐)