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気象防災アドバイザー
避難など巡り自治体に助言
頻発化・激甚化する台風やゲリラ豪雨などの自然災害に対応するため、“気象のプロ”の視点から自治体に助言などを行う「気象防災アドバイザー」が各地で活躍している。気象庁は、新たに60人の増員をめざし、全国の気象予報士を対象にした育成研修を8月から開始した。
「緊迫時に心強い存在」
予報士や気象庁OB、27県市区町で活躍
防災担当職員に気象情報について解説するアドバイザーの矢野さん(左)=20日 東京・葛飾区
台風14号が日本列島に接近しつつあった17日正午。東京都葛飾区のアドバイザーを務める矢野良明さん(73)は、自宅のパソコンで気象台の発信を絶えず確認しながら、スマートフォンの通信アプリを使い、区危機管理課など“防災3課”の全職員にメッセージを送った。
「台風は18日には九州に上陸するものと見られ、その後、九州北部付近で東に進路を変える見込みです」――。危機管理課では、矢野さんが定期的に伝える気象データの解説を参考に、20日の明け方に強風のピークを迎えるとの見通しのもと、対応に万全を期した。
矢野さんと日頃から連携を取り合う同課の桂洋介課長は、「矢野さんは、その時々の複雑な気象情報を冷静に読み解き、私たちに分かるよう、かみ砕いて解説してくれる。緊迫した場面での判断や行動を助けてくれる、心強い存在」と話す。
担当職員への研修にも力注ぐ
矢野さんは気象庁での勤務時代、防災業務に長年携わり、各地の豪雨災害の現場も経験している。「気象の知識を身に付けることが防災力の底上げにつながる」との信念で、現在は葛飾区の防災担当職員への研修にも力を注ぐ。
「タイムライン」作成へ地域回る
アドバイザーの運用は2017年度から本格的に始まり、現在、計110人が気象庁から委嘱を受けている。このうち26人が自治体(27の県市区町)から要請を受け、非常勤職員や、災害時に限定したスポット任用などの雇用条件で勤務。その活躍は多岐にわたる。
群馬県渋川市のアドバイザー、尾台正信さん(64)は、同市の職員と一緒に各自治会を訪ね、防災に関する勉強会を開催している。各自治会で3回の勉強会を行い、いざという時の避難方法などについて研さん。その上で住民同士で話し合い、尾台さんらが支援して、その集大成となる冊子「避難タイムライン」を自治会ごとに作成している。
これまでに同市内で30の自治会が避難タイムラインの作成に着手。尾台さんは「気象情報を受け取る住民の理解を深め、地域で助け合い、地域で命を守る体制を築きたい」と語った。
国の育成研修スタート
各県で5人以上の配置めざす
気象庁は今年度、アドバイザーのさらなる拡充に向け、気象予報士の有資格者を対象に大規模な育成研修を実施。283人の応募者の中から60人が選ばれ、8月から防災の基礎に関する講義・演習が始まった。10月以降は地元気象台における実地研修などを行い、年内に全員の修了をめざす。
気象庁によると、防災アドバイザーの活用に対する自治体のニーズは高まっているものの、地方を中心に活動可能なアドバイザーが不足しているという。同庁は今後も人材増に力を入れ、24年度までに各都道府県に5人以上の配置をめざす。
公明、被災地の声受け活用推進
地域の防災・減災へ、公明党はアドバイザーの活用や普及、人材確保を強力に推進してきた。
20年10月の参院本会議では山口那津男代表が、同年の「7月豪雨」に見舞われた熊本県内の被災地で聞いた「気象台OBなど気象災害情報に精通した人のアドバイスが的確で有益だった」との現場の声を紹介。気象台OBの経験を対策に生かすよう提案した。
これに対し赤羽一嘉国土交通相(当時)が、気象台OBをアドバイザーとして新たに任命する方針を表明。同年12月に29人が委嘱を受けた。
昨年4月には、党内に地域気象防災推進議員連盟を設立。全国の地方議員と連携しながら、地域のニーズに応じたアドバイザーの活用を訴えている。
気象防災アドバイザー
気象庁が委嘱する地域の気象防災に精通した専門人材で、気象予報士の有資格者または同庁のOBであることが主な要件。自治体に勤務などしながら、災害時には避難情報の発令に関する判断などに助言を行い、平時には地域防災力の強化への取り組みを支援する。