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リポート最前線 着実に増える新規就農
酪農家の7割超える
北海道中川町
北海道中川町は、地域活性化をめざして長年、新規就農者を支援する取り組みを進めてきた。町や農業協同組合(JA)などによる手厚い生活支援や技術相談などが功を奏し、町の基幹産業を担う酪農家の7割以上を新規就農者が占めるまでに。その多くが町外からの移住者であり、地域に新しい風を吹き込んでいる。
■(行政)住宅提供など手厚い支援
札幌市から北へ約300キロ。北海道中川町は、畑作と酪農などを基幹産業とする人口1350人ほどの小さな町。町は、農家の高齢化や後継者不足、将来的な農業人口の減少に対応するため、1989年に新規就農者を支援する条例を制定。30年を超える長きにわたって着実に取り組みを進めてきた。
条例の主な内容は、①最大2年間の実習期間中、公営住宅を提供し、月額25万円の生活費支給②本格的な就農時には、牛や牛舎などの5年間のリースにかかる費用の50%を補助③リース期間を終えた牛や牛舎などの譲渡を受けるための資金を借り入れた就農者に対し、借入金の3分の1以内(上限2000万円)を5年間均等助成――など。「ここまで手厚く支援する自治体は他にないのではないか」と、町産業振興課産業振興室の早坂克章主査は胸を張る。
これまで23世帯が制度を活用し、現在では町内で酪農を営む17世帯のうち、13世帯が新規就農者。このうちの9世帯が町外から移住した人たちとなっている。「夫婦2人で移住して、やがて子どもが生まれることも。皆さんが地域に溶け込みながら、町の活性化やまちづくりに寄与してくれている。小さな町にとってはうれしい限りだ」と早坂主査は笑顔を見せる。
放牧酪農の手応えを語る丸藤さん
■(農協)技術・経営面で寄り添う
新規就農者への支援については、周辺4町村でつくる北はるか農業協同組合(JA北はるか=小林治雄代表理事組合長)も力を入れている。
同組合では、職員と道農業改良普及センターの専門職員が足しげく酪農家を巡回し、技術面のサポートや経営状況について相談を受ける体制を構築。人間関係を大切に、独立して間もない酪農家に寄り添い、飼育する牛の様子などにも気を配る。
町の新規就農者支援“第1号”として、静岡県から妻と共に移住してきた経歴を持つ小林組合長は、「私自身も多くの人たちに支えられてきた。これからも、志ある新しい人材を地域で温かく迎え入れながら、次の世代までこの地の農業が続くよう最大限バックアップしていきたい」と語った。
技術面のサポートや経営状況について新規就農者から相談を受ける小林組合長(中)
“口コミ”で広がる新たな輪
こうした地域を挙げての支援を受け、2008年に新規就農者として神奈川県から移住したのが丸藤英介さん(46)。農業に興味を持ち、環境に優しく持続可能な営農に思いを巡らせる中、行き着いたのが「放牧酪農」(メモ)。これに欠かせない広大な放牧地を得て独立するには、町の支援策が魅力的だったという。
その理想通り、「配合飼料を必要以上に与えず、大自然の中で健康的に育った牛が、質の良い乳を出している」。そう手応えを語る丸藤さんの元には、放牧酪農に興味を持つ人からの問い合わせが増え、求めに応じて勉強会や交流会なども開催。町による手厚い支援策が“口コミ”で伝わり、現在も就農希望者や農業関係者が実習で訪れるなど、新たな輪が広がっている。
党道本部代表 稲津久 衆院議員
着実に増える新規就農 息長く取り組み、大きな成果
高齢化や後継者不足、さらに燃油や飼料の価格高騰など、第1次産業を取り巻く環境は非常に厳しい状況です。“日本の食料供給基地”となっている北海道でも担い手の確保が難しいのが実情です。
こうした中、中川町は新規就農者支援のモデルケースとして、息の長い手厚い支援に取り組み、大きな成果を上げてきました。
特に最近、町内で増えている放牧酪農は、低コストや省力化、耕作放棄地の再生利用に大きな役割を果たすものとして国も推進しています。その考え方に共感する人々の間に、後押しとなる同町の積極的な取り組みに対する評判が広がっているのだと思います。
今後も現場の声を聴きながら、国に対しても実効性のある支援を求めていきます。
メモ 放牧酪農
冬期間などを除き、搾乳以外は1日の多くの時間を牧草地で放し飼いする育成方法。一般的には、牛舎内で配合飼料などを与えて乳牛を育てる場合が多い。