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2022年8月23日

少子化克服へ必要な施策は

党雇用・労働問題対策本部と女性の活躍推進本部の合同会議 
お茶の水女子大学教授 永瀬伸子氏の講演要旨

公明党雇用・労働問題対策本部(本部長=山本香苗参院議員)と党女性の活躍推進本部(同)は先月、参院議員会館で合同会議を開き、お茶の水女子大学の永瀬伸子教授から、少子化・人口減少対策として、雇用慣行の改善や社会保障の充実に関する講演を聞きました。その要旨を紹介します。

現状
「子育てがリスク」と思う若者増

近年、若い世代の家族観が大きく変化し、「子どもを持つことがリスク」と感じる若者が増えています。理由として、社会全体で非正規社員が増え、夫婦の共働き志向が広がっているのに対して、それに社会保障や雇用慣行が十分に対応し切れていない点が挙げられます。

1980年代は、新卒一括採用や年功賃金、長期雇用といった“日本的雇用”が主流で、女性の多くは家族を形成すると離職し、主婦として子育てや介護を支えました。国は、こうした女性を保護すべきだという考え方でした。結婚が当たり前の当時、女性はむしろ「子どもを持たない人生はリスク」と考えていたかもしれません。

しかしやがて、結婚・出産が遅延・低下をはじめ、無子も増えていきます。そこで政府は仕事と家庭の両立政策を進めます。その効果ですが、第1子、第2子が0~3歳で結婚している女性の正社員比率の推移に着目したいと思います。なかなか政策の効果は出ませんでしたが、2010年以降、国が進めた1日原則6時間の育児短時間勤務の義務化や、ウーマノミクス(女性活躍推進)、都市部での保育所拡充などが後押しとなり、子どもを持つ大卒女性の就業継続と正社員比率は上昇しました。その一方で、高卒女性の正社員比率はほとんど増えていません。なぜなら、初職から非正規雇用に就く者が年々増え、結婚前にすでに女性の過半数が非正規雇用や無業に陥っているからです。

政策は女性の出生行動にどのように影響したでしょうか。2000年代は、結婚・出産の遅延が続いていました。しかし、育児短時間勤務の義務化は有効な政策で、就業継続が容易になったことで、就業している大卒女性の結婚・出産はやや増加しました。ただ、第2子の出生に効果があるのは、夫が家事を分担することでしたが、これは十分には増えず、両立の負担は今も女性にのしかかっているのが現状です。一方、高卒男女は、安定雇用に就けない者が増え、その結果、高卒女性の結婚・出産率は若い世代ほど下がっています。

また離婚が増えており、離婚後のシングルマザーの生活は大変厳しいです。子育てに時間とお金をかけたいという意識も高まっています。若い男女が、簡単には子どもを持てないと考えるのも、あるいは当然なのかもしれません。しかし、それでは次世代育成はままならず、われわれは新しい時代に合った社会保障を考えていかねばなりません。

喫緊の対応
出産での収入下落補う仕組みを

子育て支援に関して、短期的に実現してほしい政策を紹介したいと思います。まずは、非正規雇用者を含めて、育児期に低下する収入を補塡する支援です。女性も収入を持つのが当たり前となった現在、出産を機に低収入になってしまえば、生計は難しくなります。そこで、不安定雇用者を含めて育児休業給付として、収入の下落を社会的に補う仕組みが必要となります。

二つ目は、子どもを持つ労働者が柔軟に労働時間を調整できる、子育てしやすい仕組みづくりです。具体的には、希望する人が全員、子どもを保育所などに預けられるとともに、子どもが幼いうちは、夫婦が柔軟に労働時間を短縮できるようにするべきです。例えば、スウェーデンでは、子ども1人に対し親全員に一定の育児休業時間が与えられ、8歳まで、1時間単位で育児休業時間を取ることができます。日本でも、こうした制度を国として幅広く使えるようにしてはどうでしょうか。

三つ目は、男女とも仕事のキャリアを積みつつ、柔軟に育児ができるというメンタリティーの醸成です。そのためには、若い頃から、男女とも生涯を通じたキャリアを考えること、また、ライフプランの中に、出産・育児のための時間・時期を組み入れられるような社会規範と、雇用ルール、社会環境を推奨する必要があります。

中長期的な視点
雇用慣行、社会保障の見直しも

中長期的な視点では、社会保障のあり方と雇用慣行を、男女共に働き、かつ子育てが無理なくできるものへと変える必要があると思います。

例えば、サラリーマンの妻に限って、低収入であれば年金・医療・介護の社会保険料が免除されています。しかし、シングルマザーや自営業主の母親についても、育児期の低収入は、同様に保護する方向を考えるべきでしょう。他方で、妻が生涯、低収入にとどまることを奨励する社会のメリットはなく、寿命が延び、子ども数が減った現代においては、育児期も柔軟な形で仕事を継続できるよう、また離職した場合も、自立可能な職に戻れるように、教育、訓練機会を拡充する方向を国としても考えていくべきだと思います。

見直しすべき雇用慣行の中には、転勤しないと出世ルートに乗れないといった共働きに対応しにくいものや、非正規は賃金表がまったく別といったものもあります。容易ではないかもしれませんが、長期的には大きい転換が必至と言えます。増加する若年非正規社員に対して訓練機会を拡大し、雇用者としての保護を拡充する改革は必須です。

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