ニュース
進む水素の“地産地消”
東日本大震災 11年4カ月
東京電力福島第1原発の事故で一時、全町避難となった福島県浪江町。2017年春に帰還困難区域を除く避難指示が解除されてからは、水素エネルギーを柱に復興と新産業の創出に挑んでいる。今年からは町内に整備した世界最大級の水素製造拠点から、需要拠点に水素を効率的に運ぶ「最適運用管理システム」を導入。水素の地産地消の先駆けとなる取り組みを追った。=東日本大震災取材班
脱炭素で復興のまちづくり
移動式水素ステーションの運用で水素需要の拡大をめざす髙野さん(中)ら
福島・浪江町
水素タウン構想と「ゼロカーボンシティ」を掲げ、復興へと歩む浪江町。世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が2020年3月から稼働している。水素は太陽光発電の電力を使用して生成、生産時に二酸化炭素(CO2)を排出しないのが特長だ。年間200トンの水素が製造できる。1日当たりの製造量を燃料電池で換算すると、一般家庭約4500世帯分の消費電力に相当する。
「作る」「運ぶ」「使う」を最適化
今年4月からは、FH2Rで製造された水素の搬送から利用状況を遠隔で一元管理し、効率化を図る「最適運用管理システム」【図参照】の実証運用が行われている。国内初の事業で期間は1年間。環境省が大林組(東京都)に委託しているものだ。
具体的には水素を圧縮し、小型容器に充?。20~30本にまとめた集合容器(カードル)やトレーラーに移し、トラックで燃料電池がある、福島いこいの村なみえ(温浴施設)、ふれあいセンターなみえ(介護施設)、復興事業現場事務所、町役場(簡易水素ステーション)の計4カ所に運ぶ。
さらに、各施設の電力や熱需要、水素残量、搬送時の位置情報を人工知能(AI)が解析し、1週間先までの需要を自動で予測。この情報をFH2Rにフィードバックすることで、無駄のない水素の供給網が構築されている。
大林組技術本部の島潔部長は「1年間で配送コストやCO2排出量を3割程度削減できる」と語っている。
一方、福島県は、水素エネルギーの普及拡大で復興を推し進めようと「県水素エネルギー普及拡大事業補助金」を創設。県民を対象に、燃料電池自動車(FCV)の購入費を国の助成に上乗せする形で上限100万円を支給している。これにより、県内の登録台数は348台(5月時点)に上り、東北全体で8割のシェアを誇る。
今年5月には、同町の棚塩産業団地に移動式水素ステーション「ナミエナジー」が開所した。FH2Rの水素を活用し、1日最大5台のFCVに充填できる(事前予約制)。
運営するふくしまハイドロサプライ株式会社の髙野広充課長は「FCVを導入した企業から好評。住民の水素への関心も高まってきている」と話す。
世界に誇るシンボルに
公明党地球温暖化対策本部 赤羽一嘉本部長(衆院議員)
福島県浜通り地域では、新産業を生み出す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想(イノベ構想)」が進められています。
イノベ構想において、エネルギー分野の取り組みを推進し、福島復興を加速する大きな軸となるのが水素です。昨年11月、浪江町で吉田数博町長と懇談した際、「なみえ水素タウン構想」の具現化へ向け、水素に関する規制緩和や、価格低減化について要望を受けました。
地球温暖化対策は喫緊の課題です。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現へ、公明党は脱炭素化の“切り札”である水素の普及拡大に注力し、なみえ水素タウン構想が世界に誇る復興のシンボルとなるよう後押ししてまいります。