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【主張】復興拠点の避難解除 生活環境の整備に万全期せ
東京電力福島第1原発事故により原則立ち入りが禁止されている帰還困難区域のうち、福島県葛尾村の「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)の避難指示が、12日に解除される。
原発事故から11年が経過する中、帰還困難区域で住民の居住が可能になるのは初めてだ。長く将来の展望が開けなかっただけに、復興拠点の避難指示解除は、福島の本格的な復興へ大きな意義がある。
帰還困難区域は、県内7市町村の計約337平方キロに及び、このうち6町村の計約27平方キロが、再び人が住めるように除染やインフラ復旧を先行して行う復興拠点に認定されている。
今回、避難指示が解除されるのは、村内の帰還困難区域の約6%に当たる野行地区の復興拠点。今後、大熊町、双葉町は6月以降、浪江町、富岡町、飯舘村は来春の避難指示解除をめざしている。
大切なことは、住民帰還に向けた準備を着実に進めることだ。
復興庁が大熊町、双葉町で昨年度に行った帰還に関する住民意向調査では、4人に1人が「まだ判断がつかない」と答えている。帰還の判断に必要なことでは、医療・介護福祉施設や商業施設の再開、ライフライン整備の情報発信などが挙がった。
帰還に対する不安を払拭するには、こうした声をしっかり受け止め、新生活の見通しが立つようにすることが欠かせない。国は県や地元自治体と連携を密に、生活環境の整備に万全を期すべきである。
一方で同じ調査では、既に避難先での定住が進んでいる実態もあり、「戻らないと決めている」と答えた住民が6割を占めた。帰還を断念せざるを得なかった苦渋は察するに余りある。
たとえ帰還を諦めても、故郷の復興を願わぬ人はいまい。故郷とのつながりを持ち続け、定期的に訪れたいと思う避難住民も多い。地域行事など住民同士の交流機会の提供を支援することも重要だ。誰一人置き去りにしない“心の復興”につながるに違いない。