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2022年5月11日

災害対応経験 継承へ

東日本大震災 11年2カ月 
「チーム仙台」のエスノグラフィー調査

震災の教訓を次世代へ―。仙台市職員の自主勉強会「チーム仙台」は2011年の東日本大震災後、災害対応に当たった職員の経験を職員が聴き取り、疑似体験する「災害エスノグラフィー調査」に取り組んでいる。現在は震災後に入庁した職員が4割を占める中、11年前の記憶と教訓を防災・減災につなげる活動を取材した。=東日本大震災取材班

市職員の記憶を聴き取り
若い世代が震災を“疑似体験”

次に起こり得る災害を想定し、柔軟に対応するため、個人の体験談が必要だ――。「チーム仙台」の有志は11年12月、震災現場の業務に当たった職員への「災害エスノグラフィー調査」を開始した。

この調査は「災害現場に居合わせた人」が何を見て、考え、行動したかを「現場にいなかった人」が詳細に聴き取り、記録することによる“疑似体験”を通し、記憶と教訓の共有化を目的とするもの。

「チーム仙台」はこれまで、避難所運営や災害廃棄物の対応などに従事した職員からヒアリングを行っている。17年から、常葉大学(静岡県)と東北大学災害科学国際研究所の3者による共同研究に発展。翌18年から3年間、仙台市が加わり、有志の取り組みは市の事業となった。今年5月現在で105人の体験談を記録している。

■口から心に

「被災地の現場では『来たばっかりなので』は通用しない」(被災当時・新入職員)、「命に直結する水だけは絶対守りたかった」(同・30代水道局技師)、「被災者にとって役所は最後のセーフティーネット(安全網)」(同・宮城野区長)など……。

災害エスノグラフィー調査では、現場対応に当たった職員をはじめ、判断や意思決定を行った管理職まで、幅広い立場の職員からの“生の声”が寄せられた。これらは冊子や動画、朗読の原稿として記録、公開され、仙台市職員への研修のほか、他自治体や企業、町内会の震災体験イベント、出前講座などで活用されている。

体験イベントなどに参加した自治体職員からは、「当事者の声を直接聴けたことが印象的だった」「自治体職員として、何もできないということがないよう、有事に備えたい」といった感想の声が上がっている。

「チーム仙台」の発起人で、仙台市職員の鈴木由美さんは、「人の口から人の心に伝えることを大切にしている。災害体験者それぞれに大事な記憶と教訓がある。今後も調査を続け、『チーム仙台』ならではの伝承方法で情報発信し、防災・減災に貢献していきたい」と語る。

■「ガイドブック」作り共有

市は昨年6月、災害対応に当たった職員の経験と教訓を次世代へ引き継ごうと「職員間伝承ガイドブック」を作成。災害エスノグラフィー調査の対象となった職員延べ67人分の記録を収めた。

ガイドブックは、二つの章で構成。第1章は、インターネットを利用して学ぶ「eラーニング」の教材になっており、「津波防災」「避難所運営」の二つのテーマを設定。震災の教訓を踏まえ、対策を決めるまでのプロセスや留意事項などを職員が学べるようになっている。

第2章では、職場内ミーティングなどで活用できるよう「対話型ワークシート」を収録。証言記録を事前に読み込み、「他にはどのような行動・判断ができただろうか」などについてグループワークで共有することができる。

eラーニング教材は、宮城教育大学防災教育研修機構、同ワークシートは東北大学災害科学国際研究所がそれぞれ制作を協力した。

「チーム仙台」に所属し、防災環境都市・震災復興室の職員としてガイドブックの作成に携わった柳谷理紗さんは、「震災対応に当たった職員の体験を自分ごととして、いざという時に自分の判断で行動できるよう、日頃から職場内で話し合うきっかけになれば」と願いを込めている。

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