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2022年4月5日

医療的ケア児と家族 支援充実へ全国組織が発足

厚労省推計で約1万9000人 
地域間の格差是正をめざす

たんの吸引や人工呼吸器の管理などが日常的に必要な「医療的ケア児」とその家族に対し、国や自治体は支援強化の取り組みを加速させている。こうした中、さらなる支援の充実などをめざし、当事者と家族らが3月27日、初の全国組織である「全国医療的ケアライン」(愛称・アイライン)を設立した。発足記念式典の模様や、今後の活動について紹介する。

「顔が見えるつながりを大事にしたい」「どこに住んでいても、笑顔で過ごせるような社会づくりへ力を合わせたい」。27日に行われた発足記念のオンライン式典では、47都道府県をつなぎ、各地で団体を立ち上げている家族や支援者らが喜びの声を上げた。地域ごとの点と点の活動が一つにつながった瞬間だった。

医療の進歩で従来は救命が難しかった子どもを救えるようになったことで、医療的ケア児は増加している。厚生労働省の2020年の推計では、19歳以下の在宅の医療的ケア児は1万9000人を超え、05年から約2倍に増えた。

昨年9月には、居住地にかかわらず、等しく適切な支援をすることを国や自治体の責務とした「医療的ケア児支援法」が施行。家族の相談に総合的に対応する「医療的ケア児支援センター」を各地に設置するなど、具体的に動き出している。

共同通信の今年3月の調査結果では、支援センターについて39都道府県が開設済みか、22年度中の設置を決めたことが分かった。

とはいえ、医療的ケア児の就園や就学、在宅生活を支援する仕組みは未整備なものが多く、受けられるサービスについても地域間の格差があるのが実情。当事者や家族らには、支援法ができても自動的に支援が拡充されるわけではないとの危機意識がある。

「全国医療的ケアライン」は、地域ごとの現状を共有しながら、具体的な制度やまちづくりの必要性について、行政などと円滑な連携を進めることなどを目的に発足した。

医療的ケアの頭文字や、愛情、「identity」(アイデンティティー=自分らしさ)などの思いを込めたロゴマーク

現在の登録会員は43都道府県に及び、残る4県も準備中。メンバーは当事者や家族ら約1500人に上る。今後、医療的ケア児を知ってもらう啓発活動のほか、国や自治体などに政策や制度を提言し、個性と人格を認め合う「インクルーシブ(包容する)社会」の実現をめざす。

記念式典では宮副和歩代表が、「多くの方に医療的ケアを巡る社会的課題について関心を持ってもらい、その解決とともに、医療的ケア児と家族が地域で暮らす一人として自分自身の人生を見つけ、歩んでいける社会となるよう力を貸してほしい」とあいさつ。東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授が講演を行った。

医療的ケア児と家族 記念式典での講演要旨
東京大学 熊谷晋一郎准教授

■健常者中心の社会制度を全ての人向けにするべき

東京大学 熊谷晋一郎准教授

私は、生後すぐに高熱が出たことなどで脳性まひとなりました。私が生まれた1970年代は、ダイバーシティ(多様性)とは逆の均質性を求められる社会で、努力を重ね少しでも健常者に近づかないと生きていけない時代でした。

しかし、80年代から「障がいは身体の中ではなく外にある」との考え方が主流となり、社会制度や建物、設備などの物理的環境、人の意識や行動習慣というソフト面も含めた社会環境を変えていこうという道が切り開かれました。

この考え方を踏まえて障がい者の自立を考えてみれば、従来では、自立は依存の反対語だと捉えられることが多々ありました。

しかし私も含め、24時間に近い形で支援者、介助者が欠かせない事情があれば、依存の反対語ではない自立の考え方が障がい者コミュニティーには必要です。

障がい者と健常者で見ると、障がい者の方が多くのものに依存していると勘違いされていますが、逆です。理由は社会資源がほとんどの場合、健常者向けに依存しやすいデザインになっているからです。よって、自立は依存しないことではなく、依存できるものを世の中に張り巡らせることだということが分かります。これは障がいの有無にかかわらず、全ての人に通じる普遍的なことです。

まさに「アイライン」のネットワークは、医療的ケアの領域において、依存先を社会中に張り巡らせる運動の先駆けであり、敬意を表します。社会を変革する上では、合意形成や問題解決ももちろん大切ですが、それ以上に情報共有や経験の分かち合いこそが重要です。このことを踏まえながら、皆さんと一緒に活動していきたいと思います。

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