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脳性まひの子 救済広く
今年から「産科医療補償」の基準緩和
「28週以上」は原則、対象に
出産時に何らかの理由で赤ちゃんが重度の脳性まひになった場合、総額3000万円の補償金が支払われる「産科医療補償制度」―。この補償対象の基準が、今年1月から緩和された。従来は、妊娠28週以上32週未満の早産の場合、補償を受けるには個別審査で出産時に低酸素状況だったと認められる必要があったが、個別審査を廃止し、28週以降に産まれた場合は原則として補償対象とすることになった。
最新分析踏まえ個別審査廃止
兵庫県に住む永島祥子さんは8年前、妊娠30週の早産で男児を出産した。重度の脳性まひが残ったため、産科医療補償制度による救済を申請した。しかし、当時の補償基準は、妊娠28週から32週で生まれて脳性まひが残った場合、出産とは無関係の「未熟性による脳性まひ」が多いとの認識で設定されており、出産時に低酸素状況だったかどうかを調べる「個別審査」の対象とされた。その結果、低酸素状況だったとは認められず、補償されなかった。
重度脳性まひ児の育児は、治療やリハビリ、福祉車両の購入など多くの費用がかかる。必要な費用を捻出するため働こうとも考えてみたが「息子に付きっきりで介護する必要があり、働きに出る余裕など全くない」と、諦めた。
今回の基準緩和で、永島さんと同様のケースが補償の対象になる可能性が高くなる。今年以降に生まれた子どもについては、最新の分析を踏まえ、妊娠28週以降に生まれた場合、原則として補償の対象とすることになったからだ。
制度を運営する「日本医療機能評価機構」の資料によると、2009年から14年に生まれた子どもの状況を分析したところ「個別審査で補償対象外とされた児の約99%で『分娩に関連する事象』または『帝王切開』が認められ、医学的には『分娩に関連して発症した脳性まひ』と考えられた」という。
さらに、同資料では、近年の周産期医療の進歩により、妊娠28週以降の早産児の脳性まひは「医学的には『未熟性による脳性まひ』ではなくなっている」とした。
これらを踏まえ、従来の基準について「医学的に不合理な点があり、周産期医療の現場の実態に即していない」などの声が専門家から上がり、低酸素状況を要件とする個別審査を廃止する今回の見直しに至った。
取り残された人も……
公明議員同席し、団体が政府に要望
佐藤副大臣(右から3人目)に要望書を手渡す中西代表(左隣)と(右端から)伊佐、浮島氏ら=21年12月24日 厚労省
ただ、今回の改定では、永島さんように個別審査で既に補償対象外とされた人たちが救済されない。このように“制度のはざま”で補償を受けられず、取り残された当事者は「過去に生じた不平等・不公平が放置されている」と訴えている。
公明党の浮島智子衆院議員は昨年12月、そうした声を重度脳性まひ児の保護者らでつくる「産科医療補償制度を考える親の会」から聴き、党厚生労働部会長の伊佐進一衆院議員と連携。同24日には、両衆院議員が橋渡しして、同会の中西美穂代表らが佐藤英道厚労副大臣(公明党)と面会した。個別審査で補償対象外とされた子について、補償対象の子と同様の補償や脳性まひ発症の原因分析を行うことを要望。それらの実現へ、当事者との意見交換の場を設けることを訴えた。これを受け、今年1月には、同会と厚労省との意見交換会が始まった。
中西代表は、「重度脳性まひ児と家族が経済的だけでなく身体的・精神的にも過酷な生活実態であることがあまり知られていない中、公明党の議員が私たちの声に耳を傾けて、すぐに動いてくれた」と話している。浮島、伊佐の両氏は、引き続き当事者と連携しながら、厚労省に働き掛ける考えだ。
制度の概要
総額3000万円を支給
出産一時金増で、掛け金負担なし
産科医療補償制度は、重度脳性まひの子どもと家族への速やかな補償とともに、原因を分析して再発防止に役立つ情報を提供することなどを目的に、公明党の推進で2009年1月に創設。看護・介護費用として総額3000万円が支払われる。
同制度は、日本医療機能評価機構が民間保険を活用して運営し、ほとんどの産科医療機関が加入。掛け金が妊産婦の実質的な自己負担が生じないよう、出産育児一時金が制度創設と同時に35万円から38万円、09年10月からは42万円にアップしている。
公明党は、06年9月から同制度の創設に関して議論を重ね、07年の参院選で重点政策に掲げた。同5月には自民、公明の与党両党が創設を政府に要望していた。