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展望2022 日本の核軍縮外交
相違乗り越える対話促せ
リスク削減へ道筋示し実行を
一橋大学国際・公共政策大学院教授 秋山信将
世界の各地で悪化する安全保障環境は、核兵器の存在を改めて浮き彫りにしている。ウクライナや台湾、南シナ海情勢は、米中ロという核大国間の影響圏を巡る争いの様相を呈し、中東、南アジア、そしてわが国を含む北東アジアにおける地域安全保障情勢においても核の存在が大きくなりつつある。
そうした中で、1月4日に開会する予定だった核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議がオミクロン株の影響で再び開催が延期になった。3度の延期を受け今回こそはと期待されたNPT運用検討会議だが、今年の8月を候補に日程調整が再び行われることになる。開催が遅れるのは残念だが、ここまでの延期はポジティブに働いた面もあるかもしれない。本来の会期(2020年4月)に開催されていたら、核兵器禁止条約(核禁条約)を巡る分裂は現在より深刻であったであろう。延期された間に、核兵器国、非核兵器国が対話を重ね、NPTの国際的な核不拡散体制の礎石としての重要性を尊重し、NPTと核禁条約の関係を冷静に捉える空気が広がっている。
本来の開会予定日であった今年1月4日には、米、ロ、中、英、仏の5核兵器国が共同声明を出し、1985年に米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長(いずれも当時)が発した「核戦争に勝者はなく、ゆえに決して戦ってはならない」という宣言を確認した。3月の核禁条約の締約国会合を控え、核軍縮に対してもそれなりにコミットする姿勢を示すことで、NPTの意義を強調する意図を持ったものだといえる。
とはいえ、核軍縮へのアプローチは、実際には核禁条約とは異なる方法で、という意志も垣間見える。核禁推進派と核抑止重視派の隔たりは引き続き大きく、グテレス国連事務総長も述べたように、実際に核のリスクおよび脅威の削減に向けて、核軍縮に結び付く措置を取るよう核兵器国にどのように促していくのか、具体的な行動が問われる。
その点では、岸田文雄首相の下で日本政府の動きは注目だ。広島、長崎の経験を基に被爆者や市民社会に寄り添い、普遍的価値としての核廃絶を謳う姿勢は重要である。他方で、核の脅威が増す地域安全保障環境に正面から向き合う必要もある。まさに日本は、核を巡る国際社会の分断の象徴的存在だ。核軍縮派と安全保障重視派の「橋渡し」とは、まさに股裂きになっている日本自身を救うことでもある。
核の脅威を削減し、核軍縮を進めるためには、日本としてその理念と姿勢をアピールするだけでは不十分だ。核軍縮とは、日本の安全保障の視点から見れば北朝鮮や中国の核の脅威やリスクを実際に削減し、地域安全保障における核の役割を最小化させる道筋を考え、実行するリアリズムである。